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追悼 パウル・バドゥラ=スコダ (1927年10月6日 - 2019年9月25日)


バドゥラ=スコダ氏の最後のリサイタル(2019年5月31日、ウィーン楽友協会)

ウィーンのピアニスト、パウル・バドゥラ=スコダ氏が誕生日を11日後に控えた2019年9月25日(水)午後6時、自宅にて、痛みを伴わず、安らかに亡くなりました。91歳でした。謹んでご冥福をお祈りいたします。

戦後、フリードリヒ・グルダ(1930~2000)、イェルク・デムス(1928~2019)とともにウィーンから華々しくデビューした3人のピアニストの中の一人で、ウィーンの伝統を受け継いだ文字通り最後のピアニストでした。今年4月16日の盟友デムス亡き後、ますます演奏活動に情熱を燃やしていたと伝えられ、10月22日(東京)、25日(高崎)、28日(広島)には日本公演も予定されていただけに、その死は惜しんでも余りあるものがあります。とくにモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトにおけるスコダ氏の演奏解釈は、それぞれの作品の内容や様式を正しく伝える規範となるものでした。

彼はピアニストとしてのみならず室内楽奏者、指揮者としても活躍し、音楽学者として自筆譜や古楽器など膨大な資料収集を行い、数多くの重要な著書を発表しました。とくに「モーツァルト 演奏法と解釈」はモーツァルトを演奏する上で必読の書と言われています。教育者としても長年にわたってピアニストのみならず弦楽器奏者を含む多くの演奏家を育成。その門下からはアンヌ・ケフェレック、イモージェン・クーパー、ジャン=マルク・ルイサダを輩出し、日本人の弟子も多く、ヴェテランのフジコ・ヘミング、今井顕(ウィーン音楽大学名誉教授)から新進奏者の髙木竜馬、阪田知樹まで多彩な顔ぶれが育ってゆきました。

スコダ氏は1927年10月6日、ウィーン生まれ。ウィーン音楽学校に入学した2年後、オーストリア音楽コンクールで優勝し、名ピアニストのエドウィン・フィッシャーに師事。フィッシャーの死後、ウィーンやザルツブルク、エディンバラ、シエナでマスタークラスの伝統を続けていきました。

華々しいデビューから大成功を収めた初来日公演まで


「パウル・バドゥラ=スコダ・エディション」(20枚組)トレーラー

1949年、ウィルヘルム・フルトヴェングラーとヘルベルト・フォン・カラヤンが彼の才能に注目し、ザルツブルク音楽祭でデビュー。その後、アメリカのウエストミンスター・レーベルと契約し、数多くの協奏曲、器楽曲、室内楽曲を録音し、彼の名は開発されたばかりのLPレコードとともに世界的に知られるようになりました。1953年には初訪米、1960年には初来日し、それぞれ大成功を収めました。

この時期のCDで真っ先にお勧めしたいのが彼の90歳を記念して発売された「パウル・バドゥラ=スコダ・エディション」(20枚組)です。ここにはウエストミンスター・レーベルへの主要な録音が網羅されていて、若き日の彼の演奏をたっぷり楽しむことができます。それに続くものとして1949年と1952年にフルトヴェングラーと共演したモーツァルトのピアノ協奏曲、1960年にクナッパーツブッシュと共演したベートーヴェンの《皇帝》、そして1961年の来日時に録音した「エリーゼのために」「別れの曲」「雨だれ」などの珠玉の小品集をご紹介いたします。

 

世界的な演奏活動を本格化させた1960~80年代


オイストラフ&スコダ/モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタKV 481-第3楽章

1960年代後半にはロシアの大ヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフのたっての希望でデュオを結成。オイストラフはスコダ氏の著書を読み、自らのモーツァルト解釈に生かしていたからです。その精華はモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ集の美しいアルバムに結実しました。惚れ惚れするような瑞瑞しい音でSACDハイブリッド化されています!
1980年代にはウィーンの名ヴァイオリニスト、ヴォルフガング・シュナイダーハン、ロシアの若手チェリスト、ボリス・ペルガメンシコフとトリオを組み、シューベルト演奏でウィーンの聴衆を喜ばせました。スコダ氏の最後のCDリリースとなった1枚です。
器楽曲での記念碑的録音は1967年5月から1971年5月にかけてウィーンとローマで録音されたこのシューベルトのピアノ・ソナタ全集です。ウィーン生まれで当時RCAの副社長・統轄企画部長だったリチャード・ジョージ・マレク(1902-1987)の肝いりで実現したもので、21曲のソナタのうち、未完のソナタについてはバドゥラ=スコダ自身による補筆完成が行なわれるという徹底ぶりでした。12枚組で2,226円は安すぎます!
最後にご紹介する『1976年&1986年録音 パウル・バドゥラ=スコダのブラームス&メンデルスゾーン』はご本人愛蔵のヴィンテージ・ピアノを弾いた秘蔵アナログ録音。ほとんど活動を停止した個人レーベル、Harmonic Recordsのお宝盤です。再入荷は難しいと思われますので、お求めはお早めに!

 

ウィーンの演奏伝統を受け継いだ巨匠として名声に包まれた1990~2010年代


イルンベルガー(vn)バドゥラ=スコダ(p)/クライスラー:ウィーン奇想曲

70歳を超えてもスコダ氏の活動意欲は衰えることはありませんでした。世界的な演奏活動、教育活動を行う傍ら、本拠地のウィーンや演奏旅行先で得意のレパートリーをデジタルで再録音し、ウィーンの戦前からの老舗レコード・ショップが経営するグラモーラ・レーベルから次々に世に問うていきました。近年のスコダ氏の演奏会に接した方には、最も良い思い出となるCDではないでしょうか。多数リリースされていますが、ここではモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの名演の数々をご紹介いたします。
(タワーレコード 商品本部 板倉重雄)

 

 

カテゴリ : Classical

掲載: 2019年10月01日 00:00