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複数形のジャズ史

カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2011年02月14日 13:20

更新: 2011年02月14日 18:09

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

text:大谷能生(批評家・音楽家)

山本信太郎著『東京アンダーナイト─夜の昭和史”ニューラテンクォーター・ストーリー』より(以下写真すべて)

スポットライトが眩しければ眩しいほど、その光の輪の外にひろがる影は深く、見きわめが効かなくなる。1959(昭和34)年の12月に開店した赤坂のナイトクラブ、「ニューラテンクォーター」は、敗戦から独立回復、そして復興期へと向かう日本の芸能史上、もっとも豪奢な「大人の社交場」として、その富の蕩尽に相応しいきわだって深い陰影に彩られたエピソードの数々を残している。

内装はコンサートホール設計の第一人者に最先端の工法で仕上げさせ、ロビーには当時の金額で約300万するシャンデリアを吊り下げてゲストを歓待、VIP席もあわせて約300人という限定されたキャパにまとめられたホールの絨毯、椅子、テーブル、照明のすべてオリジナルのデザインで統一し、往時100名以上のホステスを抱え、最上級の食事とカクテル、そして海外から招聘した一流タレントのショーを提供する……。地下鉄全線が20円、「もらう月給は1万ナンボ」(by《これが男の生きる道》)の時代に、テーブルチャージでまず1000円とられ、メニューの中には「1杯1万円の中華そば」があった、というこのようなニューラテンクォーターのハイクラスぶりは、そういった〈贅沢〉の存在を平気で許容していた当時の日本の状況とともに、時間的にも文化的にも隔世に住んでいる人間として、まず感慨深い。

上記のデータはおもに『東京アンダーナイト』山本信太郎(廣済堂)、『赤坂ナイトクラブの光と影』諸岡寛司(講談社)、『MOMOSE』塩澤幸登(河出書房新社)から引かせていただいたものだが、きわめつけは開店15周年記念イベントである『トム・ジョーンズ・ショー』の、トム・ジョーンズの出演料、一夜2時間で10万ドル! まだドルが360円前後の話で、日本円にすると2時間3400万円のこのショーは、三百人限定、飲み物食べ物込みで一人12万円でサーヴされたという。

この他にもニューラテンクォーターのステージに立ったタレントは、トリオ・ロス・パンチョス、ナット・キング・コール、ミルス・ブラザース、ルイ・アームストロングその他、日本の戦後芸能界がお手本と仰いだスター揃いであり、記録を見ると、たとえば1963年の出演者など凄い。ザ・プラターズ、ビリー・エクスタイン、ジルベール・ベコー、サッチモ、パティ・ペイジ、サミー・デイビスJr.…いないのはプレスリーとシナトラだけ、ぐらいの勢いで、1953年前後からはじまる〈ジャズ・ブーム〉=海外タレントの来訪に伴って起こった本格的な〈洋楽〉ブームのひとつの頂点がここにはあるだろう。

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