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冨田勲──惑星と人生へのレクイエム

この原稿を書いている数時間前(6月8日夜)、僕はUstreamの人気プログラム「Dommune」のスタジオにいた。「冨田勲特番」の司会者として。砂原良徳、テイ・トウワの二人をゲストに、巨匠・冨田勲氏(以下敬称略)の偉大なる足跡を辿りつつ、最近出た『惑星 Ultimate Edition』を1枚丸ごとサラウンド・システムで聴くという3時間の番組だ。NHK特番以外ではめったに“しゃべる冨田”を拝めないとあって、パソコン前の視聴者はかなりの数に上り、またDommuneのスタジオにもたくさんの観客が詰めかけた。冨田本人も、若いファンの熱い反応に、驚きを隠せない表情である。

さて、メイン・イヴェントの『惑星』丸聴き。発売元のコロムビアの技術陣が、この日のためだけにわざわざバイノーラル仕様に作り直した音源を1時間弱、Dommuneの高級オーディオ機器で爆音で浴びるという体験は、想像をはるかに超えるものだった。スクリーンに映し出された宇宙映像を観ながら、いつしか自然に流れる涙。すぐ隣を見ると、『ジャングル大帝』の仕事などで冨田とも親交のあった故・手塚治虫の娘、るみ子さんもハンカチを目に当てている。それはまるで、宇宙空間を漂っているような一種の超常体験…。まさに冨田ワールドの真骨頂である。

英国の作曲家グスターヴ・ホルスト(1874〜1934)が作った管弦楽組曲《惑星》をシンセサイザーで演奏した冨田のアルバム『惑星』が初めてリリースされたのは1976年暮れである。当時、全米クラシック・チャート(ビルボード、キャッシュ・ボックス共に)で第一位に輝くなど大ヒットを記録した、まがうことなき冨田の代表作のひとつだ。03年には、4.1サラウンド・システムによるDVDオーディオ版『惑星 2003』が発表され、熱心なファンを狂喜させたが、DVDオーディオという特殊な規格も相俟って、一般リスナーの耳には届きにくかった。そこで今回改めて、4.0サラウンド・システムと通常の2chによるハイブリッドSACDとして作り直されたのが、今回の決定版、『惑星 Ultimate Edition』というわけである。楽曲の随所で、デジタル・シンセなどによる新しい音が付け加えられているためか、オリジナル・ヴァージョンよりもぐっと彫りの深い、生々しいサウンドになっている。その違いというかパワーアップぶりは、たとえば1曲目《火星》の冒頭部分、ダダダッダッ…と連打されるティンパニの音など重低音でとりわけ明らかだ。70年代アナログ・シンセ(モーグなど)と最近のデジタル・シンセ(ローランドなど)のミックスの違和感などもまったくない、見事な仕上がりだ。

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カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2011年06月30日 19:42

更新: 2011年06月30日 20:24

ソース: intoxicate vol.92 (2011年6月20日発行)

interview & text:松山晋也

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