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時を示す古今東西の映像をコラージュした24時間の大作「The Clock」──クリスチャン・マークレー

時を示す古今東西の映像をコラージュした24時間の大作「The Clock」

2001年の初開催以来、4回目となる『ヨコハマトリエンナーレ2011』。最大の話題作といえば、クリスチャン・マークレーの「The Clock」だろう。今年のヴェネツィア・ビエンナーレで「個人の部・最優秀賞」に当たる金獅子賞を受賞した映像作品だ。

ターンテーブル演奏の創始者として名高いマークレーは、音楽家ではなくアーティスト(現代美術家)をもっ て自任する。実際、「僕はアートスクール出身だから音楽家のようには考えない」「最初に関心を持ったのはパフォーマンスアートであって、その関心を通じて 音楽を演奏するようになった」などと再三に渡って発言している。

1955年、スイス人の父と米国人の母の間にカリフォルニア州サンラファエルで生まれたマークレーは、 ジュネーヴで幼少年期を過ごす。ジュネーヴとボストンの2つのアートスクールに通い、さらに、交換留学生としてニューヨークのクーパー・ユニオンで、ラジ カルな作風で知られるハンス・ハーケに師事。ヨーゼフ・ボイスとフルクサスに憧れるという、当時の典型的な美大生だった。

ところがアートスクールを卒業した80年以降、合衆国経済はロナルド・レーガンのレーガノミックスの下、 一応の回復を見る。経済に密接にリンクしたアートワールドはその恩恵を被り、アート市場は急速に拡大していった。商業ギャラリーの力が増し、消費経済にお もねる作品があふれる。実験的な作品の影は薄くなり、作家はアトリエにこもりがちになる。そんな状況に飽き足らなかったマークレーの目に魅力的に映ったの が、パフォーマンスアーティストによるハプニングや、前衛的なインディーズバンドの演奏だった。

マークレーにとって、パフォーマンスアートの偶像的存在はダン・グラハム、ヴィト・アコンチ、ローリー・ アンダーソンら。だが彼らよりももっとグッと来たのが、パンクロックとノー・ウェイヴだった。自らバンドを結成する一方、ピラミッドや8BCといったクラ ブで、アート・リンゼイ(DNA)、ソニック・ユース、エリオット・シャープらと共演を行う。分けてもジョン・ゾーンとの出会いが決定的で、マークレー は、80年代をクラブでの即興演奏やハプニング的パフォーマンスに専心して過ごすことになる。このときに用いたのが、ターンテーブルとレコード盤だった。

後にマークレーは「演奏者と録音された音のインタラクションに興味があった。ヒップホップのDJが得意と していることだけれど、ヒップホップのことを知る前にすでに行っていたんだ。僕はむしろジョン・ケージやミュジーク・コンクレートに影響されていたから、 ダンスミュージックは作らなかった。レコードを使ったのは、楽器の弾き方を知らなかったから」と述懐している(ジョナサン・セリガーによるインタビュー。 『Journal of Contemporary Art』Spring, 1992 所収)。

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カテゴリ : Exotic Grammar

掲載: 2011年09月08日 12:36

更新: 2011年09月08日 12:36

ソース: intoxicate vol.93 (2011年8月20日発行)

text:小崎哲哉(『REALTOKYO』発行人兼編集長)

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