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カエターノ・ヴェローゾ生誕70年──1968年のブラジルのトロピカリアと今(5)

その力は、彼がブラジルに戻った時の作品でさらに大きくなって行く。カエターノの初期の作品の中で最初に強いインパクトを受けた作品はこの時期に作られている。まずは、カエターノのキャリアの中で最も前衛的な作品と言われている『アラサー・アズ-ル』。このアルバムでは全くサイケデリック・ロックとして聴くことができる《ヂ・カーラ》やテープ・コラージュの《シュガー・ケーン・フィールズ・フォーエヴァー》等の曲がダイナミックに聴ける。そして、1975年の『ジョイア』では、ボサノヴァのコード進行を使いながら独自のサウンドにした《ぺロス・オーリョス》や彼の名曲の一つ《ルア・ルア・ルア・ルア》等が収録されている。《ルア・ルア・ルア・ルア》の言葉はシンプルでありながら素晴らしい。

月よ月よ月よ月よ
僕の歌がおまえと一つになる瞬間
風さえもが歌う
時の中で
止まる
白く白く白く白く僕の月よ 二人の声が沈黙のように
動く

この歌は月とはなんの関係もない

(國安真奈/訳)

このアルバムは、彼の名作の一つになっている。 1977年にはファンクに影響を受けた《オダーラ》という名曲が入っている『ビーショ』を発表している。ビートはファンクだが、そのメロディの叙情的な響きを聴いてみよう。1978年の『ムイト』では牢獄生活を歌った《テーハ》や5拍子の名曲《カ・ジャ》、そしてよくカヴァーされている《ラヴ・ラヴ・ラヴ》等が収録されている名作である。もしも、カエターノのアルバムを初めて買いたいと誰かが言ったら、僕はまずこれを推薦するだろう。《テーハ》は牢獄での体験を歌っている。

牢獄の独房に繋がれていた時
僕は生まれて初めて見た
おまえの写真を
おまえの全身が写っている
でも裸じゃなかった
雲に包まれていたからね
地球 地球よ
おまえがどれほど遠い存在であれ
どれほど過ち多き旅人であれ
おまえを忘れることは決してないだろう。
地球という少女に僕は恋をしている
おまえのエレメントは土
海からは陸が見えると言う
足にとっての陸は堅実さ
手にとっての陸は優しさ
他の星々はおまえの道案内となるだろう
地球 地球よ
僕は炎のライオン
おまえがいなければ自滅する
自らを際限なくむさぼり続けて
だが僕はやはり人間だ
人間は 星々とは違う
喜びがある
地球 地球よ
おまえがどれほど遠い存在であれ
どれほど過ち多き旅人であれ
おまえを忘れることは決してないだろう…

(國安真奈/訳)

また、当時のガル・コスタのアルバムを共に聴くといい。ガル・コスタの『ガル・コスタ』『ガル』『Legal』『インディア』『Cantar』といった同時代のアルバムでは『アラサー・アズ-ル』の実験性を持っている曲もあれば、ジョビンの名曲《デザフィナード》のカヴァーも収録されている。カエターノの妹、マリア・ベターニアは、トロピカリアの仲間にはならなかったが、彼らにとっては重要な存在だった。マリア・ベターニアは自分について、こう語っている。「私は、歌いながら演技をするのが好き。私の表現法は演劇的ね。ギリシャのようなタイプだわ。私は、ドラマチックなの」。彼女の1988年のCD『マリア』ではフランスの小説家マルグリット・デュラスの映画作品や『死刑台のエレベーター』の出演等で知られている女優ジャンヌ・モロー等もゲストの朗読で参加しており、ヨーロッパの60年代の芸術映画を見ているように感じられる重く深いアルバムとなっている。ブラジルやアフリカの伝統的な音楽も取り入れながら、このような表現法となっている作品も珍しく少ない。重要なアルバムだと思った。

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カテゴリ : BLACK OR WHITE

掲載: 2012年10月02日 17:35

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

文・AYUO

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