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カエターノ・ヴェローゾ生誕70年──1968年のブラジルのトロピカリアと今(6)

この後も、カエターノは、いろいろな音楽や芸術の影響を取り入れつつ新しい作品を発表し続けている。1982年の『Cores, nomes』にもたくさんの名曲が入っている。この時期になると、の初期の頃の攻撃性は納まり、落ち着いた詩的な美しさに溢れた作品になる。1989年のアート・リンゼイとピーター・シェラーがプロデュースした『エストランジェイロ』で、彼の名は国際的なものになった。この時期は、ちょうどオルタナティヴ・ロックが流行っていた。マイ・ブラディー・バレンタインのライヴは、ロンドンでいつも売り切れになり、ロックに再び新しい風が吹いた時期だった。カエターノは、その時期に作ったアルバムには再びトロピカリアの精神が戻ったようだった、と語っていた。

映画『トロピカリア』(2012)

アート・リンゼイは、僕が80年代の半ばに会った時に、これからブラジルのアーティストでプロデュースしたい人がいると語っていた。このアルバム『エストランジェイロ』ではまず、その詩の実験性と同時に感じられたその深さに驚いた。これは詩人の作った詩の朗読のアルバムだろうかと、最初歌詞カードを見た時に思った。カエターノは1950年代の後半に、フェリーニの映画を見て、映画監督になることを夢見ていた。

『フェリーニへのオマージュ』という1999年のアルバムがある。そこでは、かつてフレッド・アステアが歌った《Let's Face the Music and Dance》も収録されている。また、2005年のアルバム『A Foreign Sound』は全て英語のスタンダード曲のカヴァーでフレッド・アステアを最初にスターにしたアステアとロジャーズの初の共演の映画『空中レビュー時代』のテーマ曲《カリオカ》のカヴァーも入っている。そして、アステアとロジャーズの3作目となった『ロバータ』の代表的な曲《煙が目に入る》も入っている。これらのオリジナルの映画の音楽ではまるでニーノ・ロータのフェリーニの映画音楽のルーツとなるような音楽だ。こうした音楽が今の僕にとって新鮮で新しく聴こえる。

僕もカエターノの作品を聴きながら、新しい発見をする。カエターノは一つのスタイルにとどまらず、気がつくと新しい時期に入っている。

最近のカエターノのアルバムは彼の息子、モレーノ・ヴェローゾによってプロデュースされている。2006年の『CE』や2011年の『Zii e Zii』でモレーノはシンプルだが、新鮮に響くロック・サウンドの中に彼の父親のヴォーカルを包んでいる。これはとても効果的で、僕にとってはかつての60年代の頃のカエターノのロックよりも効果的にリアルに音楽を表現しているように響く。これらのアルバムのロックは今本当に新しく聴こえてくる。かつてのトロピカリアの時期のカエターノのアルバムでの、彼のロックはアメリカのサイケデリックから取り入れたサウンドだった。今では彼ら独自のサウンドとなった。カエターノとモレーノは今の時代の音楽を表現するために、最も良いコンビとなった気がする。


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Foto usada no filme Tropica  lia  Os Mutantes e Gilberto Gil  Foto de Acervo Iconographia



カテゴリ : BLACK OR WHITE

掲載: 2012年10月02日 17:35

ソース: intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)

文・AYUO

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