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特集

ERIC CLAPTON

 

 

エリック・クラプトンの新作『Old Sock』にオーティス・レディング“Your One And Only Man”のカヴァーが収録されていると知った時、思わず〈おおっ〉と声が出た。リ、リヴェンジ? 50年近く経ってから? ヤードバーズ時代、マネージャーのジョルジオ・ゴメスキーに同曲を聴かされ、〈これをカヴァーしたらヤードバーズらしいレコードが出来るかも〉と思っていたところ、次のシングルに選ばれたのは“For Your Love”。結果、クラプトンはバンドを去ることとなる——そんな逸話が頭に残っていたからだ。そのうえ、新作ではクラプトンをブルースに導いた一人であるレッドベリーの“Goodnight Irene”も取り上げている。クラプトンが活動初期から抱き続けている気持ちの揺るぎなさに、改めて感心させられただけでなく、同時に〈Your One〜〉がレゲエ仕立て、〈Goodnight〜〉がカントリー寄りのアレンジになっていたことに、半世紀に渡る活動を総括したような余裕、熟成ぶりをも感じ取った。

 

〈やりたいことしかやらない〉という正直さ

クラプトンの歩みを振り返ってみると、その正直さに驚かされる。初期のバンド活動については別掲のコラムを参照していただきたいが、クラプトンがどういう人か、実によくわかるのだ。入れ込むのも早いが、違うなと思ったら見切るのも早い。ヤードバーズのクリス・ドレヤは、クラプトンを「他人とごく短期間だけ極端に親しく付き合うタイプ」であり、「アイツのなかで何か引き金が引かれると、壁が出来てしまう」と語っている。そういう性格が結局ソロ活動に繋がっていったのだろうが、それにしても、だ。2番目のバンド、ケイシー・ジョーンズ&ジ・エンジニアーズは音楽性に耐え切れず無断でギグを休み、そのまま脱退。ブルースブレイカーズ時代も途中で離脱し、行く先々で仕事を取っては演奏するというコンセプトのもと、グランズなるバンドを組んで失踪。ギリシャからほうほうの体で逃げ帰った後にバンドへ復帰し、名作『Bluesbreakers With Eric Clapton』をものにしたが、そのリリース前には脱退。ブラインド・フェイス時代もツアー中にデラニー&ボニーの移動バスに入り浸るなど気まま。〈やりたいことしかやらない〉というスタンスで貫かれているのである。〈アーティストならそれぐらいじゃなきゃ〉という意見もあろうが、社会人としてはいかがなものか。まあ、華麗なる女性遍歴にも、それは見事に当てはまっちゃったりするわけだが(スペースの都合上、そちら方面には触れられないので悪しからず)、それを上回る何かが、周囲の人間を惹き付けて止まないのだろう……と大人らしい態度で綺麗にまとめておきたい。

そう考えると、クラプトンのキャリアはわかりやすい。私生児として生まれ、祖父母を両親と思わされて育った生い立ち、その性格形成は複雑だが、音楽に関してはストレート。幼少の頃、ポップス〜スタンダード・ジャズを通じて音楽に目覚め、10代半ばでブルース体験、衝撃を受けてその道に入った彼の活動の原点は、間違いなくブルースだ。たまたまそれがヒップなものとして流行っていたにせよ(英国全体の音楽シーンから見たらアンダーグラウンドな出来事とはいえ)、ブルースが自分のセンスにフィットすることを自覚して数ある音楽のなかからチョイスし、〈ホンモノ〉を追い求める旅に出てしまったのだから。

 

 

バンド時代のことを思い出し、みずから「あの頃はピュアリストだったから」と語っているように、極初期は〈ブルースの他に音楽の道なし〉くらいの勢いであった。が、ブルースを背骨にしつつ、その時々の興味を素直に採り入れ、自分の生活そのものまで反映させていったのも、またクラプトンなのである。ある種ミーハー的に流行りものを採り入れてバンドを延命させてきたローリング・ストーンズとはまたちょっと違った、快感原則によるアプローチとでも表現しようか。その点でも、やはり正直なのである。

クラプトンはクリーム時代から徐々に作曲や歌にも力を入れ、シンガー・ソングライターとしての姿勢を整えているが、ソロとして飛躍するのは70年。デラニー&ボニーとの出会いで、ブルースだけでなくゴスペルやカントリーも含むUS南部音楽全般の魅力にはまり、彼らやザ・バンド、あるいはJJ・ケイルのような音作りをめざすようになってからだ。当初はBB、アルバート、フレディの3大キングを筆頭に、派手なスクイーズ・スタイルの影響を受け、激しく、攻撃的なプレイをウリにしていたが、速弾きを競うような演奏から、泥臭く、余裕を持ったギターへと移行していく。当然、南部の音に直結するスライド・ギターも盛んに弾くように。デレク&ザ・ドミノスでデュアン・オールマンと共演したことも大きかったのだろう。加えて、ソロ・デビュー作『Eric Clapton』のジャケでも見られる通り、ストラトキャスターをメインで使うようになり、独自のハーフトーンによる明確なサウンド・デザインを実現。〈クラプトンといえばあの音〉なんてイメージが一段とはっきりしていく。どこまでも進化をめざすジェフ・ベックとは違い、ギタリストとしてのクラプトンは70年代に入った時点で完成していて、それ以降、テクニックよりは味で勝負するギタリストになったと言ってもいい。

 

いまも〈憧れ〉を追い求め……

歌のほうはどうか。クラプトンは初のソロ作でデラニー・ブラムレットを手本に、本格的にシンガーとしてスタートを切っている。ロック史に燦然と輝く求愛ソング“Layla”では情熱的かつ切なく懇願してみせ、独特の愁いを感じさせる唱法を完成。77年の“Wonderful Tonight”は、そうした歌手クラプトンの一つの極みであり、息子の死に突き動かされて作った名曲“Tears In Heaven”へと繋がっていく。このへんがブルースの求道者的な、硬派なイメージを超え、多くのリスナーを取り込む原動力ともなったのだ。

ただ、そうした大きな個性があるにもかかわらず、ブルースを歌う際は無理にガナったり、カヴァー曲では特定のシンガーを意識して歌うことも少なくない。その雛形はレイ・チャールズであったり、フレディ・キングであったり、カーティス・メイフィールドであったり、ビッグ・メイシオであったりとさまざま。ある意味、いまだにいろいろな憧れから抜け出せないのかもしれない。

さて、ドラッグとアルコールへの耽溺を潜り抜けた70年代前半。その嗜好と南部趣味の相乗効果(?)で、復帰作たる『461 Ocean Boulevard』『There's One In Every Crowd』の演奏はスライド・ギター主体となり、全体の雰囲気も攻撃性とは正反対のレイドバックぶりをみせる。また“I Shot The Sheriff”に端を発して、レゲエも大幅に採用。新作においても、前述した“Your One And Only Man”のアレンジや、ピーター・トッシュ“Till Your Well Runs Dry”のカヴァー他、レゲエ指数の高さはなかなかのもので、クラプトンから切り離せない要素となっている。

80年代、クラプトンの仕事もいささかルーティーンっぽく感じられることがあったが、90年代にまた大きな転機が訪れる。“Tears In Heaven”のヒット、『Unplugged』の成功、ブルースへの回帰だ。それまでのアルバムでもブルース・カヴァーは欠かさず、恒例のアルバート・ホールのコンサートでもバディ・ガイをはじめ、ブルースマンをゲストに迎えた大ブルース・ジャムを繰り広げてきたが、90年代に入ってすぐロバート・ジョンソンの『The Complete Recordings』が世界的に話題となり、メジャー・レーベルを巻き込むブルース・ブームが湧き起こった。その流れに乗じて全編ガチのブルース・カヴァー集『From The Cradle』を作り、かつてはやりたくても商業的な見地から不可能だったブルース・オンリーのツアーまで実現。そもそも、ロバート・ジョンソンのCDがヒットしたのもクラプトン効果が大だったのだから、めでたし、めでたしなのである。また、BB・キングとのコラボ盤『Riding With The King』も発表。それがBBにとって最大のヒット作となったというから、何とも頼もしい孝行息子ではないか。一方で、クラプトンのオリジナル曲に12小節3コードの形式に則ったブルースがないという事実も興味深い(『Clapton』に収録されたドイル・ブラムホール2世との共作“Run Back To Your Side”がほぼ唯一の例外)。これもある種ブルースを神聖視した、ピュアリストならではの姿勢なのかと思う。

90年代を通して、ベイビーフェイスと共演するなど現行R&Bとも接近したり、覆面デジタル・ユニットのT.D.F.に加わったりという現役感もあったのだが、やはりいちばん大きかったのは堂々たるブルース回帰。さらに『Reptile』以降は幼少の頃に親しんでいたスタンダードやポップスにもこだわり、ソロ活動初期のロール・モデルでもあったJJ・ケイルとも共演を果たすなど、まさに自身のキャリアの総括に入った感のある昨今だ。60年代のファンがタイムスリップして新作を聴いたら、さぞ驚くことだろう。

それにつけても、アルコールとドラッグに耽溺し、隠遁、迷走、大転換した70年代前半をよくぞ乗り切り、生き残ってくれたもの。『Old Sock』の“Your One And Only Man”を聴きながら、ヤードバーズがこの曲を録音し、クラプトンも脱退してなかったら、ロックの歴史は変わっていたかも……などと想像できるだけで、楽しいじゃありませんか。

 

▼『Old Sock』に参加したアーティストの作品。

左から、スティーヴ・ウィンウッドの2008年作『Nine Lives』(Columbia)、チャカ・カーンの2007年作『Funk This』(Burgundy)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2013年04月23日 17:50

更新: 2013年04月23日 17:50

ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)

文/小出 斉

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