Cherry Brown
希代の才人がやっとメジャー・デビュー!!
のんびり聴くだけで溶けてしまいそうな『Reni Renied Ride Slow Vol.1』というミックステープをYuuyu Aenslandがもう半年以上も前に発表していて、いまでもたまに聴いてしまう。あんまり説明するのもアレなのだが、高城れにとシロップを繋げるナチュラルなセンスが彼には備わっているということだ。Yuuyu Aenslandはここで紹介するCherry Brownの変名のひとつで、日本語ラップを中心に名を馳せるLil'諭吉もまた、そのひとつである。
思えば2011年末の〈OPUS OF THE YEAR〉においてAKLOとSALUを紹介した際、それと共にピックアップしていた名前がCherry Brownだった。遡れば、彼の存在を知ったのは〈日本のスリー6マフィアみたいなグループがある〉と聞いて、Trill Grillzというグループのアルバムを手に取った2008年のことだが、彼が最初のミックステープを公開したのも同年のことだった。メンフィス産のローカル・ラップめかしたアートワークに包まれたその『Supa Hypa Ultra Fres$shhh』は、しかしながらサウス好きのアニオタでアイドル好きのバイリンガルというパーソナリティーを素直に反映させた恐るべき(と当時は思えた)内容だったのだ。そこからジワジワ注目されるようになったCherryの名前は少しずつ一般作品へも浸透しはじめる。
最たるものはRICHEEとの縁をきっかけに、KNUXを交えて結成したJACK RABBITZだろう。彼らは2011年にデビュー・アルバムをリリース(収録曲は同年にw-inds.がカヴァーしている!)。もちろんそれと並行して気ままなフリー音源やマッシュアップは量産していたのだから凄まじい。クラウド・ラップもアイドルもダブステップも等価で捉えて趣味の世界へ入り込みつつ、2012年からは地上でのプロデュースや客演が急増。ページにジャケを載せたほかにもRAU DEFやYOUNG MASON(febb)、DUPER GINGER、YURIKA、KEN THE 390らの楽曲でCherryとLil'諭吉の才は躍り続けた。そんな男がついに完成させた正式なソロ・アルバムこそ、今回登場した『Escapism』だ。
リル・ジョンやDJポール&ジューシーJの影響を窺わせるクランク以降のビートを軸に、ここで彼はCherry BrownとしてのトピックとLil'諭吉としての引き出しの多さを見事に組み合わせている。先行配信のスナッピンな“iDol”にはSKY-HIをフィーチャー。そんなタイトなラップ・チューンと、ななひら(ニコ動で活躍する歌い手)を迎えたトラッピンなマッシュアップ調の“でぢたる☆でぃすこ”のような曲がCherry世界のなかで共存しているのだ。もちろん、KNUXとのギラギラしたバンガーやRICHEEとのエロい明滅トラップも控えている。
とはいえ、それが奇を衒って幅広さを狙ったりバランスを取ったりしたようなものでないことはもう言わなくてもわかるだろう。絡みの多いMINTはもちろん、PUNPEEと共に登場するさつき が てんこもりも最初のミックステープの時点から名を連ねていたわけだし、ジャケからもわかるように本作はこの多趣味なさくらんぼの脳内を表現したものなのだ。少なくとも本作をきっかけに彼の名がいっそう広まることは間違いない。
▼Cherry BrownもしくはLil'諭吉が参加した作品を一部紹介。
左から、MINTの2012年作『ミンちゃん』(ファイル)、DJちえみの2012年作『MOA MOA LOVE』(Donuts)、SQUASH SQUADの2012年作『objet』(BRAINSTORM/THE FOREFRONT)、泉まくらの2012年作『卒業と、それまでのうとうと』(術ノ穴)、DJ PMXの2012年作『THE ORIGINAL II』(BAY BLUES/HOOD SOUND/plusGROUND)
▼『Escapism』参加アーティストの作品を一部紹介。
左から、RICHEEの2013年作『Mr. Smooth』(HOOD SOUND/Villaga Again)、SKY-HIの2013年のシングル『愛ブルーム/RULE』(avex trax)、JACK RABBITZの2012年作『FLY』(HOOD SOUND/Villaga Again)
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