NU NEW MUSIC――(1)
新世代の女性シンガー・ソングライターによる良作は2013年も引き続き充実し、シティー・ポップに連なる美品も別掲以外に一十三十一や土岐麻子ら馴染みの顔から新鋭のShiggy Jr.まで、解釈の幅を拡大しながら続々と到着。派手さはなくとも磨き抜いたポップスを届けるアーティストたちの潮流は、ここ数年を継承したような印象だ。同様に、東京インディー・オルタナ・ポップ勢もそのゆるやかな輪に属する若手たちが互いに刺激し合いながら全国流通作品を発表しはじめ、例えばホライズン山下宅配便あたりは、さまざまな場所でその名を見かけたり。*土田
前野健太 『オレらは肉の歩く朝』 felicity
ジム・オルーク、石橋英子、須藤俊明らとライヴをするようになった近年の前野を、そのジムがプロデュース。特にミニマルな演奏に朗読を合わせた“街の灯り”などには、フォーク路線の先へと進もうとする意欲が凝縮されていた。簡素な単語に命を与えていく歌詞も変わってきている。*岡村
ジャンク フジヤマ 『JUNK SCAPE』 ビクター
シティー・ポップの意匠をさまざまな形で取り込んだアーティストのアルバムは2013年も目立ったが、それらの代表格にも異端児にも捉えられるのがジャンクのおもしろさだろう。端正なサウンドに暑苦しいほどのパッションを注ぎ込み、さらにオリジナルなスタイルを築いた。*澤田
キリンジ 『Ten』 コロムビア
前作から4か月余りで届いた、弟脱退に伴う兄弟としてのラスト作。千ヶ崎学、楠均、田村玄一ら正式メンバーとして次期KIRINJIを担うことになった面々とのシンプルで気負いのないセッションをサクッと収め、ラストにありがちな情緒をまるで感じさせない。何とも清々しい幕引きだった。*久保田
坂本真綾 『シンガーソングライター』 flying DOG
声優としてはもちろん、歌手としてもその声の魅力を存分に発揮してきた彼女が、この最新作ではすべての作詞と作曲、プロデュースを自身で手掛けるという新たな挑戦に出た。その非凡なメロディーセンスから、音楽家・坂本真綾の潜在能力と成長をじっくり堪能できる一枚だ。*渡辺
星野源 『Stranger』 スピードスター
病気療養を経ての発表だったからか、生命力に溢れるブライトな作品に感じた最新作。特に“化物”は舞台共演もした故・中村勘三郎に捧げられた曲で、自分たちが強く生きていこうとする決意が込められていて感動的だった。今時逆に珍しい〈いい歌〉でヒットを記録したのも特筆ものだ。*岡村
倉内太 『刺繍』 DECKREC
情けない男の日常を弾き語りスタイルで描いてきたが、この2作目では自身のダークな内面に斬り込んでいく歌詞にも挑戦。演劇調な最近のライヴの影響が出たのか、独白的なリリックがユニークな“倉庫内作業員の遊び方”が特に秀逸で、さらなる表現の可能性を見せた。本当に見逃せない存在。*岡村
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