こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

AVICII――before you go go

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2014年01月22日 18:01

更新: 2014年01月22日 18:01

ソース: bounce 362号(2013年12月25日発行)

構成・文/青木正之



アヴィーチーはダンス・ミュージックを更新する



Avicii_A



〈Electric Daisy Carnival〉や〈Ultra Music Festival〉の桁違いな動員数を耳にするたびに、空恐ろしさすら感じさせられるのが、北米を発端としたEDMの過熱ぶりだ。そんな喧噪の中心に祭り上げられたアヴィーチーは、まぎれもなくこのシーンを巨大化させたひとりであるが、単なる流行に乗じたDJ/プロデューサーと見誤ってはいけない。YouTubeなどにいくつものカヴァー動画(アカペラ、アコギ、ピアノ、ハード・ロックなどなど、“Wake Me Up”だけでも無数にある!)がアップされているのは、いかに彼の書くメロディーが素晴らしいかを端的に表しているものだろう。そして、いとも容易く昂揚感をピークに到達させてしまう、エンターテイメント性に溢れたライヴ・セットは、会場のサイズが大きくなればなるほど狂騒の過激さを増すのだ。



いつも新曲を作っているのに……

そうやって幅広いリスナーたちを魅了してやまないアヴィーチーは、ティム・バーグやトム・ハングス名義でも活動している23歳。出身はスウェーデンのストックホルムだ。スウェーデンといえば、アダム・ベイヤーやエリック・プライズ、ジョン・ダールバック、ラスマス・フェイバー、スウェディッシュ・ハウス・マフィアなどなど、世界的なDJ/プロデューサーを数多く輩出しているダンス・ミュージック大国であるが、彼自身はそういった先達の音楽にはそれほど影響を受けてこなかったという。

「子供の頃に周りで流れていた音楽の影響のほうが大きいんだ。父親がよく聴いていたのはレイ・チャールズだったし、兄弟たちの影響でキッスやなんかも聴くようになった」。

比較的ありふれた最初の音楽体験ではあったが、「プロデュースを始めてからは腕を磨くためにとにかく努力して、ピアノの基礎から、スケールやコード進行などを学んだ」と語り、生真面目に音楽制作に没頭していたであろうことを窺わせる。そこから急速に駆け上がるまでに本人の努力は必要だろうが、人並み外れた才能を持ち合わせていたことも間違いないはずだ。その秘めたるポテンシャルを呼び起こしたのは、彼とコラボレーションした先輩プロデューサーたちだった。2010年に“Don't Hold Back”で共演したジョン・ダールバックを皮切りに、“Sunrise Over Me”でのセバスチャン・イングロッソ&ティエスト、そしてデヴィッド・ゲッタとの共作に挑んだ楽曲“Sunshine”ではグラミーにノミネートされてもいる。

「彼らからはたくさんのことを学んだよ。みんな僕にとって良き指導者だ……本当に影響を受けたし、彼らの音楽を聴くことで多くのことを教えてもらった。ひとつのトラックをさまざまなコードやさまざまなスケールにアレンジするやり方といったベーシックなことからね。それが最終的に今日の僕のサウンドとなったんだ」。

最初に成果として現れたのは、エタ・ジェイムズ“Something's Got A Hold On Me”のサンプリングが印象的な“Levels”。世界中のチャートを席巻し、アヴィーチーを特別な存在へと押し上げることにもなった曲である。

「確かに“Levels”で僕の名前を知らしめることができたし、とてもありがたいと思ってる……でも僕が作ったトラックはあれだけだと思い込んでいる人もいるんだよ! この4、5年トラックをリリースしてきて、これまでに100曲くらいはリリースしてるし、いつも新曲を作っているのに。だから“Levels”が唯一の作品だといつも言われるのは腹立たしい」。



規格外に踏み出したかった

デッドマウスやスクリレックス同様、アヴィーチーも矢継ぎ早に作品を世に放つことでバズを生み、スピーディーに時間が流れていく時代に楔を打ち付けることに成功しているが、“Levels”に対してのモヤモヤした感情は彼をよりいっそう奮起させ、“Silhouettes”、レニー・クラヴィッツとの“Superlove”、エリック・ターナーとの“Dancing in My Head”、ニッキー・ロメロとの“I Could Be The One”……と、結果的には2012年を代表するヒットを連発して周囲を驚かせることになった。そして2013年、彼はクラブ・ミュージックの歴史を変えた“Wake Me Up”の誕生を迎えるのだ。

「マネージャーのアッシュが、コンテンポラリー・フォークとインディー・サウンドのアイデアを出してくれたんだ。すごく気に入ったよ! 僕は規格外に踏み出したいと思っていたから、その変化を実行するためにもっとも適した方法だと感じたんだ」。

R&Bシンガーのアロー・ブラックをフィーチャーしたこの曲は、これまでのクラブ・ミュージックの定型を覆してフォーク〜カントリー調のリフ(ギターはインキュバスのマイク・アイジンガー)を用いたサウンドがあまりに衝撃的で、賛否両論を巻き起こしつつも瞬く間に世界へ伝播し、70か国で1位を獲得する規格外のヒットに。そしてこの問題作“Wake Me Up”の熱が冷めやらぬなか、畳み掛けるようにファースト・アルバム『True』がリリースの運びとなったわけだ。

「〈アヴィーチー=“Levels”〉となるのはごめんだった……だから何か新鮮で違ったことをやってやろうと決めていたんだ」。

多忙なこともあり、計画性をもって作り上げたアルバムではないという。唯一テーマがあったとすれば、“Levels”の成功が招いたトラウマにより、“Wake Me Up”以前の膨大なヒット曲がまるで収録されていないことだろうか(日本盤にはボーナス・トラックとして収録!)。だが、そのぶん彼の感覚が素直に表現されているのは興味深い。最近よく聴いていたというオブ・モンスターズ・アンド・メンやマムフォード・アンド・サンズからもインスパイアされているらしく、ブルーグラスやカントリーの滋養が染みた“Hey Brother”があるかと思えば、アダム・ランバートのセクシーでパワフルな歌唱が炸裂するソウル/ディスコ調の“Lay Me Down”(ギターはナイル・ロジャーズ!)があったりと、アヴィーチーの新しい面に出会えるトラックが数多く収められている。われわれにあと残された願いといえば、いまだ叶わぬ来日公演で生身のアヴィーチーに会い、そのパフォーマンスを体感することだけだ。



▼アヴィーチーの作品。
左から、2012年のEP『Levels』(Interscope)、2012年のミックスCD『Strictly Miami』(Strictly Rhythm)、2013年のフィーニックスパールとの連名ミックスCD『Onelove Sonic Boom Box 2013』(OMG)

 

▼『True』参加アーティストの作品を一部紹介。
左から、アロー・ブラックのニュー・アルバム『Lift Your Spirit』(XIX/Interscope)、インキュバスの2011年作『If Not Now, When?』(Epic)、ダン・ティミンスキの2008年作『Wheels』(Rounder)、アダム・ランバートの2012年作『Trespassing』(19/RCA)、シックのベスト盤『The Best Of Chic』(Atlantic)、オードラ・メイ・アンド・ジ・オールマイティ・バンドの2012年作『Audra Mae And The Almighty Sound』(Side One Dummy)

 

インタビュー