FEED ME――beat me or feed me
刺激に飢えたビートの獣はいつ満ち足りる?
スクリレックスを輩出したことから脚光を浴びたカナダのマウストラップだが、そこを足がかりに世界的な支持を獲得していったという意味では、2013年の〈フジロック〉出演によって日本でも評価をグッと上げたフィード・ミーの名を忘れちゃいけない。EDMのムーヴメントが世の中に浸透する前からお得意のバンギンかつヘヴィーなエレクトロ〜ベース・サウンドで暴れ回ってきた彼は、ロンドンを拠点とする84年生まれのクリエイター。2010年に発表した楽曲集『Feed Me's Big Adventure』が人気を得てコーンの『The Path Of Totality』に起用され、並行してイグザンプルのプロデュースや、チェイス&ステイタスらのリミックス、ハドーケン!とのコラボを意欲的に繰り広げてきた。そんなノリにノッている男がいよいよ初のオリジナル・アルバム『Calamari Tuesday』を完成させたのである。
人によってはもしかしたら、2000年代半ばにドラムンベース界隈を賑わせたスポアという名前のほうが通りがいいかもしれない。もともと10代の頃からドラムンベースを作っていた彼は、最初のシングルをスポアとして2004年に発表している。以降はレネゲイド・ハードコアやトラブル・オン・ヴァイナルから複数の名義でシングルをリリース。やがてスポアの持ち味として凶悪なニューロファンク・サウンドを確立するのだが、そこを経由してダブステップ、さらにはエレクトロ〜ハウスも貪欲に持ち札に加えんと立ち上げた覆面プロジェクトがフィード・ミーだったのだ。このあたりの創造的なスタイル拡充はノイジアとも通じるが、実際に初期フィード・ミーは彼らの主宰するディヴィジョンからもスプリット盤も発表していた。
フィード・ミーの貪欲な雑食ぶりを象徴する緑のゆるキャラ(?)は、デッドマウス率いるマウストラップからのファースト・シングル『The Spell/Raw Chicken』(2008年)の時点からすでにジャケを彩っていた。その頃にはスポアもベースメント・ジャックスやケミスツのリミキサーに起用されるなどビッグになりはじめていて、両名義は並走状態にあったのだが、例の『Feed Me's Big Adventure』の広がりは緑色のモンスターを一気に肥大させることになる。彼やラスコの駆使するレイヴィーなグリッチ系ベース・サウンドは北米で〈ダブステップ〉という呼称を与えられて一気に大きくなり、さらにはそれも含む〈EDM〉という総称が世界的なムーヴメントに育った時期と、彼のクリエイティヴな方向性が見事にシンクロしたのだ。以降もフィード・ミーはマウストラップからデジタルEPを重ね、2013年には自身のレーベル=ソット・ヴォーチェを設立。待望の『Calamari Tuesday』はそこからの第1弾作品でもある。
とはいえ、クリスタル・ファイターズと組んだ前年の“Love Is All I Got”などマウストラップから楽曲も一部に収録。ドラムンベース界隈で著名なジェナ・Gや馴染みのターシャ・バクスターといったシンガーも配されてはいるが、彼の標榜するキャッチーさは歌メロの覚えやすさのような部分に託されているのではない。そこがメロディー志向の強い昨今の若手クリエイターとの違いだろうが……フィード・ミーが聴かせるのは、あくまでも強靭なリズムと圧と緩急のある展開の妙で織り成されるダンス・トラック。ターシャの歌う“Ebb & Flow”はいかにもドラムン畑の人が作ったような雰囲気だし、我流のトラップ“Rat Trap”やアーシーなレゲエの“Ophelia”、さらには洒落たカットアップ・ディスコやダフト・パンクの代わりにやった(うそ)ロボット・ロックまでトラックの多彩さも相当なもの! 凶悪にして人懐っこいモンスターの妙技を味わい尽くしてほしい。
▼関連盤を紹介。
左から、フィード・ミーの2010年作『Feed Me's Big Adventure』(Mau5trap)、コーンの2011年作『The Path Of Totality』(Roadrunner)、イグザンプルの2011年作『Playing In The Shadows』、同2012年作『The Evolution Of Man』(共にMinistry Of Sound)
▼『Calamari Tuesday』に参加したアーティストの関連盤を紹介。
左から、クリスタル・ファイターズの2013年作『Cave Rave』(Zirkulo)、ジェナ・Gの2006年作『For Lost Friends』(Bingo Beats)、ターシャ・バクスターの参加したアップビーツの2013年作『Primitive Technique』(Vision)