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ウォルター・ラング・トリオの新作『フル・サークル』

Walter Lang Trio

これまで夜を描いてきたドイツのウォルター・ラング(p) がまた新たな世界への扉を開く。今回は全編を通して世界の土地や音楽への心を綴った、回想と現実を漂うようなアルバムだ。パット・メセニーの「ミヌアノ」(M1) 、ファンへ捧げる日本の名曲、ジャズスタンダードはそこそこに、たくさんのオリジナルによる全13曲が収録されている。今回もトーマス・マークッソン(b) とセバスティアン・メルク(ds)という布陣で、作風に新しいニュアンスを加えながら、ダイナミックで繊細なプレイを展開する。

「牧歌」(M2) は宮沢賢治の名作だ。わずか3音(ファ・ソ・ラ) の旋律は、独自のフィルターを通すことで、懐かしさと透明感が共存する世界に広がりを加える。続く「フィドル」をイメージしたオリジナル(M3) は前曲とのコントラストが面白く、欧州の牧歌風な明るい雰囲気がある。ヴォイシングが中でも美しい表題曲「フル・サークル」(M10) は、ジャズの基本である五度圏〈Circle of 5th〉で一周する、ということなのだと思う。このアルバム全体の世界観にも通じるものがあり、ゆらゆらと浮遊しながらも3つのアーチによる美しい円が形成されていく。クロージング(M13) は、「カンザスの空」を描写した今までになくソウルフルでどこかロックなナンバー。オーティス・レディングやキャロル・キングが歌ってそう、と思わせるような土や風の香りさえ感じる。

確固たる技術を持ち、光やランドスケープを操るウォルター・ラングは、フォトグラファーのような奏者だ。この作品を手にした人は、ずっと心に残るであろう一瞬一瞬と出逢うことになる。

Text by 小島万奈

タグ : ジャズ・ピアノ

掲載: 2016年09月30日 12:32