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インタビュー

小菅優

「ベートーヴェンの真の人間性、同世代に伝えたい」

10歳からドイツ語圏で暮らすピアニスト、小菅優がベートーヴェンのソナタ全曲録音に乗り出した。20代、しかも女性ピアニストによる挑戦は世界でも珍しい。

──最初のベートーヴェン体験は何歳でしたか?

「5歳か6歳で作品49(第20番)のソナタを弾いたのが最初です。作品14の2(10番)も早くから手がけました。ベートーヴェンは常に訴えたい内容が明確で、文学や哲学への関心も広がっているので、興味を共有できる接点が多い。小さいころは『テンペスト』(作品31の2=17番)で自分が馬に乗り誰かから逃げているとか、作品31の3(18番)に迷路を連想したりなど、よく物語を描きました。今は人生を重ねたり、作曲家の苦悩を想像したりしながら、ベートーヴェンに対し、いっぱい質問したくなります。どのソナタもオーケストラ的、作品によってはピアノ協奏曲や弦楽四重奏曲の要素も加味されるので、ピアノ以外の演奏会へ出かけても必ず、ソナタの勉強ができます」

──毎年ディスク2枚分、5年がかりの全曲録音は壮大な企画です。

「これほど自分が成長できるレパートリーは、なかなかありません。18歳あたりから『いつか全曲を弾こう』と思いつつ、何度も『まだ早い』とブレーキをかけてきました。いま28歳。作品2の3曲は、どんなに熟していると言っても、ベートーヴェンが25歳かそこらの音楽です。かなり本能的に書かれた部分もあるし、あれこれ考えず、今の私にしか表せないものを演奏会と並行し、ディスクに残そうと決めました。5巻それぞれにテーマを持たせるために何度もボキャブラリーカードを組み直し、第1巻には『出発(アウフブルッフ)』と付けました。本当の出発になった作品2と、耳の病の悪化で『ハイリゲンシュタットの遺書』を書いた後、再び歩み出した時期に書かれた作品31の組み合わせです。そこに、私自身のたどるべき道も重ねて行きます」

──同世代が共感してくれるといいですね。

「ベートーヴェンは戦争の時代にありながらも『生きていて良かった』と、希望を見ていました。私たちの世代は一見平和な世の中に存在していますが、実際には激しい競争に支配され、内面まで平和というわけには行きません。真の人間性を求めながら書いたベートーヴェンの作品を弾くことで同世代に人間性の素晴らしさ、生命力といったものを少しでも伝えられればいいなと思います」

LIVE INFORMATION

『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ第4回」 第24番「テレーゼ」、第25番、第15番「田園」、第6番、第21番「ワルトシュタイン」』
7/19(木)19:00開演 大阪・いずみホール
7/20(金)19:00開演 東京・紀尾井ホール

photo by Marco Borggreve

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2012年05月07日 11:32

ソース: intoxicate vol.97(2012年4月20日発行号)

取材・文 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)