GOATBED 『HELLBLAU』
[ interview ]
cali≠gari、XA-VATという特異な活動形態の2バンドでフロントを張る石井秀仁のプロジェクト・GOATBEDが、約3年半ぶりとなる新作『HELLBLAU』を完成させた。
昨年秋よりアートワークも手掛ける兄弟ユニットという編成になり、今年5月には音楽プロデュースを担当したPCゲームのサウンドトラック『- shape.memory.music - DRAMAtical Murder soundtrack』において新曲も発表。満を持して到着した本作には、これまでの持ち味であるクール・ビューティーなエレポップに70~80年代初頭のクラウト・ロック、そして90年代のハード・ミニマル的な音像が注入されており、同名義としては時代感により広がりを見せた歌ものダンス・ミュージック集に仕上がっている。
制作した本人いわく「全体的に温度が低いアルバム」とのことだが……そんな今作について、石井秀仁に訊いた。
シンセサイザーは夢があっておもしろい
――もう1年半ぐらい前の話になりますけど、XA-VATのアルバムのインタヴューをさせていただいた時、活字化していないところで〈GOATBEDでも今後やりたいことが見えてきた感がある〉っていうお話をされてたの覚えてます?
「ああ、それは〈GOATBEDで〉って言ったかもしれないけど、個人的にってことですよね。ただ、それがGOATBEDっていうことになるんですかね」
――あの時点で思い描いていたことは、今回の作品にも繋がってますか?
「そうですね。XA-VATは、作りながら後悔してたことがあったんで……後悔っていうかね、それは個人的にですよ? メンバーには関西在住の方もいるし、曲もデータのやり取りで作ってて、あと時間がなかったこともあるんですけど、音作りとか、全部ソフト上で済ませてたところがあったんですよね。それでなんてこともなく進めてたんだけど、途中でちょっと違和感が出てきて。そもそも俺、ソフト・シンセとか好きじゃなくて、抵抗してたタイプだったんです。それをね、XA-VATのレコーディングをやってるときに、ふと思ったことがあったんですよね。〈あれ?〉って。〈あたりまえのようにこういう音出してるけど、よくよく考えたら俺、こういう音全然好きじゃねえよな〉みたいな」
――時間がなかったという理由もあったにせよ、どうしてそういう事態になってしまったんでしょう?
「朝起きて、ちょっと落ち着いたらパソコンの電源入れちゃうっていう。でも俺、なんのためにパソコンの電源を入れたんだろう?って。別に意味はないんですよね。そんな感じですよ。それ(ソフト・シンセを使うこと)があたりまえのことになってたんですよね、いつのまにか」
――とりあえずTVをつけちゃうとか、そういう感覚?
「そうそう。だけどね、楽器とか、シンセサイザーは特にそうですけど、ちょっと夢があっておもしろいじゃないですか。ヴィンテージのシンセとかね、格好良いルックスのものもたくさんあるし。ツマミがいっぱいついてて、配線――パッチングしないと音出ないやつ。で、一生懸命パッチングした結果、ブーッてしか言わないみたいな(笑)、100%制御できなかったりするところが楽しい。突然ムチャクチャなフレーズが鳴ってきたりとかすると、〈お!? でも格好良いからこれでいっちゃおう!〉みたいな、そういうのが曲を作り出した頃から好きだったんですよね。でも、いまだったらライヴやるにしてもパソコン1台で行くでしょ? シンセサイザーいっぱい並べてやるのも大変だし。だけどGOATBEDの初期の頃って、そういうことやってたんですよね」
――それは見た目としても楽しいですね。
「だけど、リハーサルを4時間やるとしたら、そのうち2時間はセッティングと片付けですからね(笑)。それで、一生懸命セットしたこのシンセサイザーはいったいどこで使ったのかっていうと、3曲目の何小節目かでちょっと出てきたけど、みたいな。俺、無駄な楽器をいっぱい持ってたんですよ。シンセもそうだし、ヴォコーダーもYMOが使ってるやつとかを持ってて、cali≠gariが活動休止した頃は、そういうのをいっぱいステージに並べてライヴをやりたくてしょうがなかったですよね(笑)。で、最初の頃はそういう感じでやってたんだけど、だんだん身体が追いつかなくなってきて。対バンにも迷惑かかるし、とか」
――機材が多いと、転換も長くなりますからね。
「そうそう。そういうところから、あたりまえのようにパソコン1台だけで、っていう感じになってたんですけど、そこを今回は見直したんですよ。かと言って、音数がすごく多くてゴージャスなアルバムっていうのではまったくなくて、むしろ完全な引き算なんですけど」