チャットモンチー 『変身』
2ピースというものがバンドの最小単位にして、無限の可能性をたたえているのだということをこの作品は教えてくれた。橋本絵莉子と福岡晃子、2人で再び走り出すと決めて、わずか1年、これほどに自由でカラフルでスコーンと図抜けたアルバムがまさか届けられようとは。今、高らかに放たれるチャットモンチーの『変身』宣言を聴け!
こんなに楽しくていいのかなって不安になるぐらい楽しかった。<10代みたい!>って言いながら作ってました。
のっけからもう軽やかだ。朗々かつ高らかに<変身するぞ>、<変身しよう>と歌い上げられるオープニングナンバー、“変身”。アルバムと同タイトルを冠した今作、そして現在のチャットモンチーをも象徴する1曲に違いないが、そこには変わらなければいけないとか、変わるべきだというような気負いや構えなどカケラもない。伝わってくるのは音楽を奏でる純粋な喜びとプリミティブな楽しさ、それに尽きる。
橋本絵莉子(Vo.&Gt.):この曲を作ってるときがもう、こんなに楽しくていいのかなって不安になるぐらい、めっちゃ楽しかったんですよ。2人で<10代みたい!>って言いながら作ってて。今まで、苦しんで生んでこそだと思い込み過ぎてたけど、これでいいんだって改めて思えました。
5作目であり、また<2ピースバンド、チャットモンチー>としては初となるニューアルバム『変身』が届いた。昨年9月のメンバー脱退により、ベーシストだった福岡晃子が自ら志願してドラムに転向し、橋本と2人でバンドを続けると決意したときも、その潔さと発想に度肝を抜かれたが、今作はそれの遥か上を行く自由さと実験的チャレンジに溢れた会心のアルバムだ。今や彼女たちの音楽においてはギターとドラムという編成すらもあくまで基本スタイルに過ぎず、曲によってはベースとドラム、ピアノとドラム、しかも橋本がドラムを担当する曲もある。前述の“変身”など2ピースでありながら音は完全に3ピースバンドのそれだ。まったくもって縛りがない。ただひとつ、揺るぎないのは<この2人である>ということだけ。
福岡晃子(Dr.):誰がどの楽器をやれば曲が一番よくなるか。2人しかいないから昔と比べれば当然、あらゆる面で精密なことはできてないんですよ。でも、その倍は面白くて実験的なことをやってるから、それくらいのリスクはしょうがないなって。本当にカッチリやりたかったら、まず人を増やしますもん(笑)。でも、この未完成感、人がツッコミ入れたくなる曲っていうのもいいんじゃないかなって。<だけど、楽しそうだからいいんじゃない!!>みたいな。
しかし頑に2ピースを貫く一方で、奥田民生(“コンビニエンスハネムーン”)、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(“きらきらひかれ”、“Yes or No or Love”)をプロデューサーに迎えた楽曲や、初めて本格的に生のストリングスを導入した“歩くオブジェ”など外部からの血を積極的に取り入れようとしているのも今回の特徴だろう。また、“初日の出”、“ウタタネ”の2曲で元SONIC YOUTHのジム・オルークがエンジニアを務めているのも注目だ。
福岡:考え方や録り方が根本的に違う。ジムは<ここで出てる音がすべてでしょ? 僕はその音を録るだけだから>っていう考え方で。2ピースをなんとか膨らませるような音作りではなくて完全に2人を押し出した、演奏そのまま、スッピンの音なんです。だからレコーディングはかなり大変でしたけど、ハッとさせられることもありましたね、<2人っていうのはこういうことか>って。すごくいい経験になったし、面白かった。
また、今作では橋本が作詞を手がけた楽曲の比率が高いことも目を引く。そのうちの1曲“少女E”はタイトルが語っている通り、自身をモチーフにしている。
橋本:2人でやることに決めて動き出した頃の、<なんとかしなくちゃ!>っていうときに書いた詞なんです。でも<バンドをなんとかしなくちゃ>っていう想いを書くとリアルになりすぎるから、バンドを自分に置き換えて。こういう気持ちにまたなるなんて、と思いますね、今見ると。ホント、高校でチャットモンチーを始めた当時みたいな、ワーッと燃えたぎるような感情が今の自分にもあるんだなって。強い曲になりましたね。
1年前、2人になった当初の遮二無二な切迫感は、今作を完成させた今、おおらかな確信へと昇華したに違いない。2人でやっていくことの良さと不利の両方も、この制作を通して知っただろう。そうして今の自分たちならば不利も強みに変えられるということを。“変身”の2文字に彼女たちが託した意味をあえて説かずとも、収められた12曲を聴いて感じたものがすべて。解釈はそれぞれでいい。ただ、ここに鳴る音楽を楽しみ、面白がっていただけたら、きっと2人も本望だ。チャットモンチーはまだまだ変わる。変身し続ける。11月にスタートする待望のワンマンツアーでも、その果敢なる姿を目撃してほしい。
■ALBUM……『変身』 10/10 on sale!
SONG LIST
01.変身
02.ハテナ ※TBS系テレビ全国ネット「CDTV」5月度オープニングテーマ
03.テルマエ・ロマン ※フジテレビ アニメ「テルマエ・ロマエ」主題歌
04.少女E
05.コンビニエンスハネムーン
06.Yes or No or Love
07.初日の出
08.歩くオブジェ
09.きらきらひかれ
10.ふたり、人生、自由ヶ丘
11.ウタタネ
12.満月に吠えろ ※テレビ朝日系連続ドラマ「妄想捜査」主題歌
【初回限定盤DVD】
『Studio Live DVD 変身中』
01. きらきらひかれ
02. 初日の出
03. コンビニエンスハネムーン
04. Yes or No or Love
05. ウタタネ
■LIVE…「チャットモンチー TOUR 2012-2013」
<2012年>
11/9(金)新宿LOFT
11/12(月)北見オニオンホール
11/14(水)函館club COCOA
11/17(土)秋田Club SWINDLE
11/18(日)青森QUARTER
11/20(火)郡山HIP SHOT JAPAN
11/23(金・祝)浜松窓枠
11/25(日)水戸ライトハウス
11/30(金)神戸WYNTERLAND
12/1(土)京都府 磔磔
12/6(木) CRAZYMAMA KINGDOM
12/8(土) 高松オリーブホール
12/9(日)徳島club GRINDHOUSE
12/15(土)金沢EIGHT HALL
12/16(日)新潟LOTS
12/22(土)宮崎WEATHER KING
12/23(日・祝)鹿児島CAPARVOホール
<2013年>
1/13(日)、14(月・祝)東京Zepp DiverCity
1/18(金)宮城・仙台 Rensa
1/20(日)愛知・Zepp Nagoya
1/25(金)大阪・Zepp Namba
1/26(土)大阪・Zepp Namba
2/2(土)福岡・Zepp Fukuoka
2/3(日)広島・CLUB QUATTRO
2/10(日)北海道・Zepp Sapporo
2/17(日)沖縄・ナムラホール
※詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。
■PROFILE…チャットモンチー
徳島県出身。2005年にメジャーデビュー、3ピースバンドとしてロックシーンを代表する存在に成長を遂げる。2011年9月、高橋久美子(Dr.)が脱退。以降、橋本絵莉子・福岡晃子の新体制で精力的に活動を展開中。



記事内容:TOWER+ 2012/10/10号より掲載