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インタビュー

MARIA 『Detox』



M、A、R、I、A、世界が平伏すネーム——SIMI LABから登場したスウィートな一撃は、地球を食らう勢いで聴く者のハートを温かく包み込むだろう。このマリア様は聖母か女傑か毒婦か淑女か、あるいは……



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「もうラップやめた、学校出たけど就職とか知らねえよ、日本にいたくない……って思って、19歳でアラスカにいた時期があったんです。自分を誰も知らない土地で過ごすのは新鮮で、癒しでもあったんですけど、物を整理してたら自分がラップしてた頃の写真が出てきて、それを見て衝撃を受けて……私ホントはラップがやりたいんだ、とわかって。逃げるのってマジ簡単だけど、自分がどうありたいか気付いたら悲しくなったし、そんな気分をもう二度と味わいたくないから、辛くてもがんばらなきゃと思って」。

OMSBにDJ ZAI、DyyPRIDEと充実した単独作の続いているSIMI LABからの次なる一撃……というか、MARIAにとって自分の作品を出すことはクルー加入前からの夢でもあったのだ。そして登場したアルバムの名は『Detox』——いまだ姿の見えないドクター・ドレーの次作と同タイトルだ、が。

「みんな〈MARIAが先だね〉とか言ってたんだけど、私はドレーのほうをむしろ知らなかったですね(笑)。甘いものばっか食べてたから、最初は『White Sugar』ってタイトルの予定だったんです。そしたら、OMSBが〈摂取するより出してる側だから『Detox』がいいんじゃない?〉って。確かに曲のなかで出しまくってるわ、と思って。いまとなっては凄く気に入ってるタイトルです。ストレス社会だから、みんなけっこう毒素出したいよ、って」。

SIMI LABが初作で確たる評価を手にして以降、グループで参加したDCPRGやメンバー各々のソロ作はもちろん、DJ PMXや田我流、Roundsville、soakubeats、KYNらの作品に名を連ねた彼女は、KLEPTOMANIAC & RUMIとコラボした“LA NINA”プロジェクトや、CRZKNYのビートでジュークにも挑戦してきた。それと並行してグループが新曲“We Just”を放った昨夏にソロの構想を固め、多忙の合間を縫って年明けに一気に完成させたという。

「メンバー以外の曲に客演する時は、サーヴィス精神というか喜んでほしい思いだけですけど、SIMI LABとソロに関しては、いくらやっても納得いかないです。それでもSIMI LABは全体で考えるからけっこう冷静に判断できるんだけど、ソロは自分でしかないから、自分で自分をジャッジするのが難しくて」。

そして完成した『Detox』は、当然ながらのSIMI LABらしさも濃密に漂わせつつ、普段は強気なボーストを前面に出すことの多い彼女の、多面的な表情を記録することに成功している。OMSBの諸名義を軸に、Lil'諭吉、LowPassのGIVVN、MUJO情らトラックメイカーも多彩だ。

「いろんなビートを聴いて、直感で好きなのだけ選んだ感じ。野菜を食べないでお肉ばっか食べた人のアルバムって感じです。やりたいこともたくさんあったし、その時のノリとか気持ち、衝動で作ってたから、コンセプトとかを訊かれると困るけど、全体のバランスは考えたかも。ライヴでかませる曲もあって、家でゆっくり聴いてもらったら最後そのまま寝れる(笑)」。

その眠りを誘う(?)終曲“Bon Voyage”と、幻想的な序曲“HipHop's ma...”は、特に彼女のヴィジョン通りにディレクションしてOMSBが仕上げたものだそう。

「ラナ・デル・レイのふわふわした感じとか曲の作り方が好きで、“HipHop's ma...”は彼女に影響されてますね。“Bon Voyage”は、オッド・フューチャー“Sam(Is Dead)”のPVの最後に超まったりした生音のエンドロールがあって、私のアルバムはこんな感じで終わりたいなと思って、雰囲気をOMSに伝えて作ったんです」。

その2曲に挟まれる格好で、MARIAの魅力は自由に開花。20歳の時にリリックを書いて「いつか曲を出せる日が来たら使おうと思っていた」という“Make It Happen Wit My Ass”があれば、「リアルタイムでむかつく女がいたから(笑)、ビートを聴いた瞬間にリリックがどんどん出てきて……」という経緯でC.O.S.A.の“Locals”をジャックしたハードな“Helpless Hoe”もある。JUMAとOMSBを従えたプラネット・ロッキンな“Roller Coaster”での盛り上がりを折り返し点に、後半はISSUEがビートとラップで参加した酩酊チルな“Depress”や、RoundsvilleのJUGGによる宇宙的なビートを儚い歌声が漂う“Sand Castle”などが並ぶ。Earth No Madらしいソウルフルなループに乗せて失った恋の傷みを綴る“Your Place”はそんな終盤のハイライトだ。地球を食らうジャケ通りの豪快さや野蛮さも発散しつつ、MARIAの懐の深さや繊細さ、清らかさまでもが多彩なドープネスを通じて伝わってくる作品じゃないか。

「やっぱり自分が作って満足、じゃないんですよ。聴いた人が楽しんでくれたり何かの原動力にしてくれたり、それがあって初めて私の中で成立するものなので。だからアルバムは出来たけど、まだ途中っていう感じですね」。

聴き手がこの不思議な温かみに包まれた時、『Detox』は完成する。



▼『Detox』参加アーティストの関連作を一部紹介。
左から、田我流の2012年作『B級映画のように2』(Mary Joy)、TAKUMA THE GREATの2012年作『THE SON OF THE SUN』(forte)、Jack Rabbitzの2012年作『FLY』(HOOD SOUND/Village Again)、Roundsvilleの2012年作『Running On Empty』(Brown Cordier)、LowPassの2013年作『MIRRORZ』(Pヴァイン)

 

 

▼MARIAが参加した作品を一部紹介。
左から、OMSBの2012年作『Mr. "All Bad" Jordan』、DyyPRIDEの2013年作『Ride So Dyyp』(共にSUMMIT)、DJ ZAIの2012年作『CAPITALZ』(Unbreakable)、LA NINAの2012年作『LA NINA』(BLACK SMOKER)、DJ PMXの2012年作『THE ORIGINAL II』(BAY BLUES/plusGROUND)、KYNの2012年作『渚』(諭吉)

 

 

▼関連盤を紹介。
左から、ラナ・デル・レイの2012年作『Born To Die』(Polydor)、オッド・フューチャーの2012年作『The OF Tape Vol. 2』(Odd Future)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月22日 14:50

更新: 2013年08月22日 14:50

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次

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