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インタビュー

PRIMAL 『Proletariat』



眠る男から働く男へ——斜塔の麓から立ち上がったマイク巧者が帰ってきた。プロレタリアートの言葉はブルジョワを踊らせるか?



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「結婚して子供ができて、想像しなかった世界に入り込んだ。そのなかで音楽活動をしていくのが難しいって思った瞬間もありましたけど、諦めきれずにやろうってなって。そういう悩んでる自分を含めての6年だと感じてますね」。

家庭と一児をもうけたプライヴェートの喜びこそあれ、初作『眠る男』以来の歳月は、PRIMALにとって、断ちがたい音楽への執着と共に過ごした日々だった。思うに任せぬMSCの動向と、レーベルとの関係。新たなバンドでアルバムをめざした矢先の頓挫……それらも重なって制作から遠ざかっていた彼は、ふたたびここでソロに活路を求めた。6年ぶりのセカンド・アルバム『Proletariat』はそうして完成したものだ。〈労働者階級〉なるタイトルは、家庭のために身を粉にする彼の現在を象徴している。

「階級ってものが日本に存在するとしたら、俺の人生そのものが労働者階級。一人でいると、プロレタリアートの下のルンペンプロレタリアートでもいられちゃうぐらいだらしないんですけど、家庭を持ったら働く世界から抜け出れない。それをポジティヴに捉えてやってこうっていうことです」。

アルバムの曲作りは一昨年、本作の13曲目に収録された“血”を最初に始まった。それからまもなく起こった東日本大震災を挿んだことで、曲作り全体の様相も変わっていったという。

「〈街もいずれはぶっ壊れてなくなるから、血だけを残すしかねえ〉みたいな感じで“血”を書いてたら、地震が起きた。それがなかったらもっとそういうところを攻めたと思うんですけど、逆に人として現実をちゃんとやってかないといけないって感じになって、ある意味ポジティヴな曲もそっから作られてった」。

NHKのかつての小学生向け教育番組「はたらくおじさん」のテーマソングをイメージしたという裏話からは想像もできない、PONY(stillichimiya)との威風堂々とした硬派なタイトル曲。DJ BAKUのエレクトロニックなビートに緩急をつけたラップで応える“MY HOME”や、OMSBのトラックで〈善悪弁えるべきうるせえカスから脱皮〉と歌う“子供とママと家庭”。そして、漢をはじめとするMSCのメンバーやRUMI、The Anticipation Illicit Tsuboiらお馴染みのメンツとの楽曲に加え、彼が歳の近い父親のように日頃から師事してきたMAKI THE MAGIC(先頃惜しくも急逝)制作の“武闘宣言2.0”。さらには、結局アルバムを残せずに終わったバンド、WATASHIと残した録音でアルバムのクライマックスをエモーショナルに飾る“共倒れ”——隠れた自分や社会に冷ややかな視線を向けながら、『Proletariat』でPRIMALはこれまでの歩みと現実をしっかりと受け止め、満たされぬ音楽への意欲を改めて示した。

「経験したものをリセットしてくのは難しいし、背負っていかなきゃいけない。そういう開き直りを出せたと思うし、一回挫折しちゃってる感じはあるけど、それで死んだわけじゃないよって思いもある。今回のアルバムで自分の全体像は出し切ったと思う」。

〈孤独な俺の欲届くとこまでやるぜ/TOKONAよりも覚醒どこまでもSuccess/目指して描くぜ〉(“おむつがとれるまで”)——眠りから覚めたその目に光を宿し、PRIMALがここに歩みを刻む。



▼『Proletariat』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、MC漢&DJ琥珀の2012年作『MURDARATION』(鎖GROUP)、TABOO1の2010年作『ライフスタイルマスター』、メシアTHEフライの2010年作『MESS -THE KING OF DOPE-』(共にLibra)、PONYの2010年作『Verseday』(桃源郷)

 

▼『Proletariat』に参加したトラックメイカーの作品を一部紹介。
左から、DJ BAKUの2013年作『JapOneEra』(POPGROUP)、OMSBの2012年作『Mr. "All Bad" Jordan』(SUMMIT)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年08月28日 17:00

更新: 2013年08月28日 17:00

ソース: bounce 358号(2013年8月25日発行)

インタヴュー・文/一ノ木裕之

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