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インタビュー

ハルカトミユキ 『シアノタイプ』



内なる怒りをヴィヴィッドに表現するため、2人が取った方法は〈ポップさ〉を逆手に取ること。自分たちは何者なのか──その探求の果てに完成した〈青写真〉とは?



ハルカトミユキ_A



〈ポップ〉を逆手に

大声で発された言葉が正論となることも多い現代社会。その矛盾や不条理、そして、それをただ眺めているだけの自身にも痛烈な言葉を向けるハルカトミユキの歌は、声高どころかむしろ密やかですらあるが、だからこそ冷や水を浴びたような衝撃を聴き手にもたらす。そんなガールズ・デュオがメジャー移籍第1弾アルバム『シアノタイプ』を完成させた。ほとんどの詞曲を手掛けるハルカ(ヴォーカル/ギター)の透き通った声とアコギ/鍵盤の旋律を中心に、日本の70年代フォークと北欧ポスト・ロック~エレクトロニカを経由したオルタナティヴなサウンドを鳴らす2人。その彼女たちが今作で新たに選んだ手法は、〈ポップさ〉を逆手に取ることだ。ドラッギーに揺れる音像のなか、弾むような、けれどどこか情緒の欠落したハルカの声が〈引きずり出して飛び散った/赤や緑のハラワタ〉〈支配者はどっちだ?/「早くなんか言えよ」〉と、ともすれば入れ替わりかねない被験者と支配者の不安定な関係を暴くリード曲“マネキン”はその極北だ。

「最近歌詞を読み返したら、ホントに狂気じみてるなと。ポップな曲調で良かったなって思いました(笑)。マネキンとか操り人形とか実験台とか、〈ちょっと人間離れした作られたもの〉っていうテーマがなんとなくあるんで、人間的な感情をふっと忘れて、楽しいのかなんなのかわからずに歌っちゃってるロボット的な感じは出したかったですね。でも、そのほうが怖いっていう(笑)」(ハルカ)。

また、そうしたメンタル・パンクな気質が“マネキン”とは対照的に表出しているのが“mosaic”。やはり権力に対しての問題提起や皮肉が根底にありながら、本作中もっともエッジーでドライヴィンなロック・ナンバーだ。2人は攻撃性も露わに、〈大事なもんは見えないまんま/モザイクかかってる/大体、もうどうすりゃいいとか/お前に訊く気はない。〉と言い放つ。

「両方とも怒ってる歌ですけど、“mosaic”は歌録り直前の一時間ぐらいで歌詞を全部書き直してて。そのぶん言葉もストレートだし、真っ直ぐ聴こえるんじゃないかな?と」(ハルカ)。

「そういう真正面からぶつかっていく歌詞だから、私はふざけてっていうか、上からバカにしてるみたいなフレーズを入れたりして」(ミユキ、キーボード/コーラス)。

そもそも一筋縄ではいかないポップセンスを持つ彼女たちだが、今回はそのポテンシャルを大きく開放。例えば、「らしくないって言われるんですけど、アルカラとか戦車倶楽部とか、もともとこういう音楽が好きだったことを思い出しました」(ミユキ)という奇妙な音色のシンセ・フレーズが前面に出たスピード・チューン“振り出しに戻る”。あるいは、BPMを大幅に下げ、打ち込みのリズムとホラーズ『Strange House』(2007年)風のシンセを入れた結果、ゴシックなムードを纏ったという“伝言ゲーム”。そして「7拍子のドラムの音がまず出てきて、そこに好きな音を組み合わせていった感じで。どういう感情っていうのはないから、〈7拍子の無意味〉で“7nonsense”」と当人が語るミユキ製のインストなど多様な楽曲が並ぶなか、“マネキン”スタイルのミスマッチ感を採用したナンバーがもうひとつ。多重コーラスも美しいガーリーなギター・ポップ調で〈君〉の嫌いな点を延々とあげつらう“Hate you”は、人前で演ることに長い間抵抗があった曲だという。

「これを演ることで、みんなが思い描いているハルカトミユキ像を壊してしまうんじゃないかっていうのがあって。“マネキン”もそうだったんですけど、そこが吹っ切れたのが今回のアルバムで」(ミユキ)。

「ひどい男なんですよ、〈君〉は。これは、これだけこっちが傷ついてきたんだから今度は言い返してやるわ、っていう詞なんです。女子会で愚痴を言ってるような感じですね(笑)。だから真面目にやってなさを出したくて、変なギター・フレーズを入れたりしてます(笑)」(ハルカ)。



自分たちは何者なのか

そうして自身の内包する毒をヴィヴィッドに表現する方法を掴んでいった反面、従来の彼女たちが響かせてきたフォーキーでメランコリックな楽曲も健在。ノスタルジックなメロディーと重くざらついたリズム隊との対比で詞の残酷な結末を演出する“長い待ち合わせ”、陰影のあるギター・サウンドと明度の高いシンセが微かな希望を映し出す“シアノタイプ”と“ナイフ”が要所を押さえている。

「“長い待ち合わせ”は、〈待ちぼうけで結局誰も来ない〉みたいな情景を書きたくて。6歳の頃、ただ時間を忘れて待ってて、気が付いたら日が暮れてて、仕方なくひとりで帰ったっていうことがあって。それと数年前、もう物心がついてからの待ってる感じ──イライラしたり、心配したり、電話してみたりっていう感覚がフラッシュバックしてきて〈昔から待ってばっかり〉みたいな(笑)。でもそういう〈待つ〉っていう感覚はすごく記憶に残ってるんだなと思って、ひとつテーマとして書いてみたいと思ったんですよね。“シアノタイプ”は唯一のラヴソング的な要素で……でもこれが限界です(笑)。未来の予感というか期待を歌ってるんですけど、素直に言えないからなんだか切ないっていう(笑)。“ナイフ”は光のイメージですね。光が満ちて、(視界が飛ぶように)音が飛んでるっていうか……ナイフもキラッと反射してるような感じで。だから、〈ナイフ〉という言葉が危険な印象を与えないようにあえて曖昧な部分を残して、最後は前向きに捉えてもらえるよう意識して書きました」(ハルカ)。

「“ナイフ”はちょっと北欧っぽいドリーミーな感じを出したくて、空間的な音を入れて、ちょっとだけ遊ぶところは遊んで。こういう綺麗で、切なくて、壊れそうな雰囲気の曲は、勝手にポンポンとフレーズが出てきますね」(ミユキ)。

こうしてすべてのピースが揃った『シアノタイプ』は、文字通り、ハルカトミユキの現時点における青写真を示すものとなった。

「今回はいい意味で遊んでみたりしてるんですけど、それでも変わらないところがあったりして、自分自身の音楽性を改めて確認したり、初めて知ったり、っていう感覚があって。いままでは、自分たちが何者なのかわかってなかったっていうか……いまも全然わかってないんですけど(笑)、でも、それでいいんだろうな、って。これからだんだん作り上げていくものなんだろうなと思って」(ハルカ)。

「このアルバムを作ったことがいいきっかけになったかも。これからは、もっといろんなことにチャレンジしていけるような気がしてます」(ミユキ)。



▼関連盤を紹介。
左から、アルカラの2013年作『むにむにの樹』(スピードスター)、ホラーズの2007年作『Strange House』(Polydor)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月25日 19:40

更新: 2013年11月25日 19:40

ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)

インタヴュー・文/土田真弓