往年の渋谷系サウンドを思い起こさせるけど……ノスタルジーでは終わらせない新人現る!
野佐怜奈(ノサレイナ)という新人歌手が登場した。横浜出身でさそり座、A型の女性である。彼女のファースト・アルバム『don't kiss, but yes』ですべての作曲、プロデュースを手掛けているのは高浪慶太郎で、バックの演奏はポータブル・ロック。さて、そう聞いて皆さんはどんな音楽を想像する? ピチカート・ファイヴ? 野宮真貴? 渋谷系?──そう考えるのは至極あたりまえだが、すべて微妙に正解ではない。いや、雰囲気だけをトレースしたフォロワーと思われるので、ここはきっぱり〈不正解〉と言っておいたほうがいいだろう。
冒頭曲“嘘つきルージュ”に、ピチカート・ファイヴ“スウィート・ソウル・レヴュー”の匂いを嗅ぎ取れる(この曲は小西康陽が書いたものだが)ものの、楽曲のド真ん中にあるのは2012年の空気をしっかりと吸い込んだグルーヴと60〜80年代の優れた歌謡曲が携えていた豊潤で普遍的なグッド・メロディー、そして適度な主張と豊かな情感を備えた彼女のヴォーカルだ。アルバムにはムーディーなソウル・バラード“未知の記憶”、メランコリックな歌謡ポップ“相合傘”、マリアンヌ東雲(キノコホテル)とのデュエット“ランブルスコに恋して”、さらにサニーデイ・サービスの田中貴や西浦謙助(アゼル&バイジャン)らが作詞した曲もある。昭和歌謡のリヴァイヴァルでもなければ、〈ネオ渋谷系〉でもないし、はたまたシティー・ポップのようなものでもないけれど、あの頃に忘れてきてしまったわりと大切な何かを取り戻してくれる作品だと思う。
▼関連盤を紹介。
左から、高浪慶太郎とプレイタイム・ロック・ミーツ・柴田健一の2012年作『Evening Primrose』(プレイタイム・ロック)、キノコホテルの2011年作『マリアンヌの恍惚』(徳間ジャパン)