スーパー・ウーマン、ビヨンセのサード・アルバム。ピュアでもろい自分の内面をさらけ出すような“アイ・アム...”サイドと、今まで以上にセクシーで、強気で、炎のように熱い“サーシャ・フィアース”サイドからなる2枚組みで、この両極端な曲を見事にサウンドへ落とし込み、ビヨンセ・ノウルズの“今”を最大限に表現した、史上最強ヒロインの史上最強アルバム!
タワーレコード(2009/04/08)
来日プロモーションで貫禄十分に魅せた“If I Were A Boy”を聴いて、アルバムが少し心配だった。いや、歌うビヨンセは逞しくて格好良いし、トビー・ガッドらしいポップ・カントリー調で歌う内省的な姿も新鮮なんだけど、デスチャの“Say My Name”以来、どうしても彼女にはガツガツしたイノヴェイティヴな部分を求めてしまうわけで……と、そんなうるさい声も十分に了解してのことだろう、ニュー・アルバム『I Am... Sasha Fierce』は2枚組での登場となった。まず、先述の“If I Were A Boy”を含む〈I Am〉盤は、ジャケのナチュラルメイクそのままに飾らない内面を表現した一枚。穏やかな曲調を中心にひとりの女性の葛藤や……(略)というわけだ。
一方でサウンドも含めて刺激的なのは、当然もう一枚の〈Sasha Fierce〉盤ということになる。〈サーシャ・フィアース〉というのはステージに立った時の恐い物知らずなビヨを指す別人格らしいが、キャラを明確に振り分けたことで方向性も明確になり、ダンスホール調の冒頭曲“Single Ladies(Put A Ring On It)”すら大人しく思えるほど、サーシャの暴れっぷりは過去のビヨを優に凌ぐ。リル・ウェインとT.I.のNo.1ソングを手掛けた今年最大のヒットメイカー=ジム・ジョンシンとはハイパー・トランスな“Radio”“Sweet Dreams”を繰り出し、ションドレー製の異様にパーカッシヴな“Diva”、変態的なヴォーカリゼーションが昇降する“Ego”などなど、攻めに徹した姿勢はひたすら痛快だ。サーシャ最高!
で、このキレの良さは、大化けしたリアーナを意識しまくった結果の産物なんじゃないか、とも思う。サイバーなトラックを迂闊にやれば後追いとも言われかねないわけで、ビヨ的にはサーシャをそれ以上に爆発させるのが最善策だったのだろう。実際、リアーナ人気の立役者であるドリームとスターゲイトを〈I Am〉盤にだけ迎えたあたりに、先駆者としての意地も見え隠れする。このガッツがある限り、ビヨンセはまだ無敵だ。
bounce (C)出嶌 孝次
タワーレコード(2008年12月号掲載 (P68))