私は鳥類学者でもなければ、鳥にものすごく詳しいマニアでもない、ただのバードウォッチングを趣味とする市井の人間です。
ところがそれからある時、私はそのバードウォッチャーの「本道」から少し外れて「脇道」を進んでいる自分に気がつくことになります。どういうことでしょうか。それまでの私は鳥たちの愛くるしい瞳や色彩豊かな羽色にばかり心を躍らせていたのですが、それがいつの間にか鳥の脚ばかりを見るようになっていたのです。
鳥の脚は(もちろん種類にもよりますが)「可愛らしさ」や「美しさ」といった言葉をあてるのとは違う、いってしまえば「いびつさ」や「きもちわるさ」のようなものを持っています。よくよく観察すると、まるで怪獣のような脚を持つ鳥や、言葉として正しいかどうかはわかりませんがグロテスクな印象をたたえている脚の鳥までいます。
そうしているうちに私は、鳥の脚に着目してバードウォッチングを行うことにある種のゾクゾクとした快感が伴うことを発見しました。鳥の「妙」に目覚めた瞬間でした。三十歳オーバーの男が鳥の脚に興奮しているというのも、なんだかゆるやかに書類送検な香りがしますが、まあそこは無視してください。
その新たな視点によって、改めて鳥の世界を眺めてみると、脚だけにとどまらず、奇異な顔つきの鳥、エキセントリックな羽の鳥、異様な習性の鳥など、たくさんの「妙」がそこにあることに気がつきました。
ゾクゾクが、止まらなくなってしまいました。このゾクゾクは、一体どこからくるのでしょう。ヒントは、意外なところから現れました。恐竜図鑑です。
近年の研究で判明したことらしいのですが、「絶滅した」と多くの人が思っている恐竜は実は全然絶滅などしておらず、現在は鳥として私たちの周りに生息しているのだそうです。
それを知った瞬間、私は世界の景色の見え方が一変しました。庭にやってくるヒヨドリも、ゴミ袋を荒らしているカラスも、動物園のダチョウも、恐竜なんだ!
つまり私たちは現在、「ジュラシック・パーク」に囲まれて、生きているんだ!
私が「妙な鳥」にゾクゾクしているのはもしかしたら、そこに恐竜の残り香を感じているからなのかもしれません。たしかに「妙な鳥」たちは、どこか遠くから運ばれてきたような、本当は存在してはいけないような、そんな艶めかしさを放っています。
いま、書店には「美しい鳥」や「かっこいい鳥」などをテーマとした図鑑が跋扈しています。その中に一冊、「ゾクゾクするという鳥の愛し方」を主張している図鑑が紛れていてもいいのではないか。そうして生まれたのが、本書です。
また「現代の恐竜図鑑」として機能している図鑑でもありたい、とも思っています。
本書を読み終えた時、あなたの世界の景色が少しだけ変わっていたら、こんなに嬉しいことはありません。
さあ、ようこそ。「妙な鳥」の世界へ。一緒にスーパーハード・バードウォッチングへと出かけましょう。
(※著者によるプロローグより抜粋)