『宝島』を読みながら味わいたい。

ビリー・ボーンズとは、ロバート・ルイス・スティーヴンソン作『宝島』の冒頭に現れ、死してホーキンス少年を大冒険にいざなう、よく日に焼けて頬に刀傷のある老海賊の名前です。マットブラックのボトルに山高帽を被ったしゃれこうべが白く浮かび上がるというデザイン(山高帽のシルエットは実はもう1つボトルに隠れています)は在りし日の海賊旗を思い起こさせます。物語の中でビリー・ボーンズが愛飲していたのはラムでしたが、ドイツ西部フランクフルト近郊にあるMr.ボーンズ蒸留所が老海賊の名を冠してリリースしたのは、昔ながらのロンドン・ドライジンでした。しかし、このジンには非常に独創的なひねりが加えられています。定番のジュニパーベリーやブラックベリー、そして地中海産のいくつかのハーブにレモングラスといったボタニカルの他に、カカオ豆と花椒という驚くべきフレーバーが用いられているのです。

このドライジンでまず特筆すべきは、鮮烈に鼻の中を突き抜け、そしてふくよかに広がっていく豊かな香りの花束です。柑橘系のフルーティな香りが最初に立ち上がり、続けて新鮮なレモンが生き生きとその存在を主張し、かたわらでカカオとジュニパーがほのかな花椒の香りと共に緩やかに輪舞を踊っています。香りの柔らかさに比べて味わいは最初のうちはかなりスパイシーに感じられます。高いアルコール度数と、味蕾に突き刺さる花椒の影響です。しかし次第にカカオの甘さ、レモンとまじりあう繊細なハーブの味わいが辛さの下から姿を現し、最後にブラックベリーとスグリが余韻となりゆっくりと消えていきます。トニックウォーターと合わせると、辛みが抑えられ、香りと味わいの素晴らしいハーモニーをよりカジュアルに楽しむことができます。