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Public Enemy(2)

意識革命

〈民衆の敵〉というグループ名もさることながら、彼らのライヴ・パフォーマンスもかなりのインパクトを与えるものだった。ステージ後方のお立ち台に姿を現す、ベレーを被ったS1Wの面々はなんと完全武装、すぐにでも客席に銃口を向けられる態勢のもと、モータウン・リヴューとマーシャル・アーツを組み合わせたような振り付けで、曲に合わせて身体を動かしているのだ。公民権運動以降のアフロ・アメリカンの歴史を知る者なら、それがひと昔以上前に注目されたブラック・パンサー党の連中を模したことに気付くはずだ。ブラック・パンサー党は、警察からの不当な暴力の餌食であったアフロ・アメリカンが、警官が銃を持つなら自分たちも銃を持って、警察の動き、ひいては〈白いアメリカ〉という体制を監視するべきだ、という発想のもと武装した自衛のための党だった。実際、S1Wのメンバーには、ブラック・パンサー党あるいはネイション・オブ・イスラムに属する者も含まれていた。念のために付け加えておけば、彼らもS1Wも基本的には銃に弾は込めていない。PEは、そこまでして自分たちがアフロ・アメリカン側の立場から、暴力・ドラッグ渦・意識の欠如といったブラック・コミュニティーを蝕むありとあらゆる社会問題に言及し、体制側を激しく糾弾するポリティカルなグループであることを強調したのである。あのロゴのライフルの照準は、彼らに向けられているのと同じように、〈白いアメリカ=体制〉に向けられてもいたのだ。

デビュー作『Yo! Bum Rush The Show』でこそ、そういったメッセージ色は表立っていなかったが、もともとはシングルのB面曲として発表された“Rebel Without A Pause”、マルコムXの「Too Black, Too Strong...」の声で始まる“Bring The Noise”を実質的な1曲目に配した88年リリースの『It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back』で、彼らは一気に世間の注目を浴びることになる。というのも、チャックDは、ブラック・パンサー党、ネイション・オブ・イスラムなどの急進的なブラック・ナショナリズムとも受け取られかねない思想を背景に、“Don't Believe The Hype”をはじめとする各曲で、ラジオ、雑誌、テレビといった各メディアについて、その偽善者ぶりや悪影響をことごとく批判して〈メディアを信じるな〉と訴え、パンク・ロック以来、いやそれをも上回る音楽史上最強の〈反抗〉の首謀者として君臨するに至ったからである。だからこそ、ハードコア・パンク思想を継承するスラッシュ・メタル界から、アンスラックスのようなバンドを迎えて“Bring The Noise”を共演し、ツアーを共に展開するという動きもあったのだ。

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2002年08月22日 16:00

更新: 2003年03月13日 18:47

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

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