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Public Enemy(3)

音楽革命

 もっとも、PEの曲が世界中に衝撃を与えたのは、決してそのメッセージの力強さや過激さによるためだけではない。やがてボム・スクワッドとクレジットされるプロダクション・チーム、彼らが作る――リスナーによってはノイズの洪水としか受け取れないような――革新的なサウンドにあった。それは、一聴しただけではサンプル源がいくつあるのか到底見当もつかないほどカット&ペーストを繰り返し、トランスフォーマー・スクラッチをファンキーにレベルアップさせたようなターミネーターXのコスリがサイレンの音などシアトリカルなサウンド・エフェクトを被せていく、きわめて実験的なものであり、なおかつ独自の強靱なファンク感覚を放つ、二重の意味で〈分厚く〉て、音のデカいトラックだった。

 このサウンドはもちろんデビュー作から試みられていたものだったが、それらが完璧なかたちで完成されたのは、スパイク・リーの名を広めるのにも大いに貢献した映画「Do The Right Thing」のテーマ曲として作られ、クラブでも人気を集めた“Fight The Power”、また、説教師のようなチャックDに対して道化役のような役回りであるフレイヴァー・フレイヴの活躍が目立つ“911 Is A Joke”などを含むサード・アルバム『Fear Of A Black Planet』だった。彼らのファンクの根源をジェイムス・ブラウンやスライ、P・ファンクのアーティストたちに求めるのはたやすいことだが、例えば、PEがJBの“Get Up, Get Into It, Get Involved”を繰り返しサンプリングし、その回数が10回近くに及んでいる裏には、ヒップホップの定番ブレイクビーツの記憶を受け継ぐだけでなく、〈立ち上がれ、目覚めよ、行動せよ〉という60年代後半のブラック・パワー・ムーヴメントの時代に叫ばれたメッセージが、それから20年以上経った後でも、(あいにく)まだまだ有効であるという現状の証明でもあった。彼らは音楽的にも革命的であったのである。ボム・スクワッドの構成員は、グループのコンセプト・メーカーであるハンク、そしてキースのショックリー兄弟、エリック“ヴェトナム”サドラー、そしてチャックDだった。

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2002年08月22日 16:00

更新: 2003年03月13日 18:47

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

文/小林 雅明

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