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Public Enemy(4)

IT革命

 PEのあのロゴの照準が合わせられていたのも、当初は〈白いアメリカ〉という――衝撃度はきわめて高いものの――いささか漠然としたものだったが、それが〈体制〉へ、さらに各種メディアと次第に具体化されていったにもかかわらず、90年3月に、ネイション・オブ・イスラムの一員でもあり、ブラック・パンサー党の機構を意識して〈情報相〉とも名乗っていたプロフェッサー・グリフが〈反ユダヤ〉と解される発言をしたことは、グループの方向性にあきらかに逆行するものであり、グリフはPEを追われることになった。その後にリリースされた『Apocalypse 91... The Enemy Strikes Back』前後から、ブラック・コミュニティー内にはびこる暴力などの諸問題にも〈照準〉が合わせられるようになったのは決して偶然ではないだろう。また、この時期からフレイヴァーが薬物・拳銃絡みの事件を連続して起こすというマイナス要素も重なるが、通算5作目となる94年の『Muse Sick-N-Hour Mess Age』では彼を反面教師とすることで、PEとしての対面を保った。

 彼らはこのあと活動の中心をライヴに据えるが、98年のアルバムでスパイク・リー監督による同名のディズニー映画(!)のサントラである『He Got The Game』での〈NBL〉に続く彼らの次なる標的は、その活動上もっとも深く関与している〈レコード業界〉であった。しかも、メジャー・レーベルの搾取を指摘する“Swindler's Lust”を彼らのサイトにおいてMP4(!)でリリース、さらにその次作にあたる『There's A Poison Goin On...』の収録予定曲をMP3ファイルで公開するが、所属していたデフ・ジャムはそれを無断で削除。そうこうするうちに、PEはデフ・ジャムと訣別し、〈slamjamz.com〉というオンライン・レーベルを設立、このアルバムを一部先行無料ダウンロードできる形で発表した。かつてチャックDは、「ラップは黒いCNNだ」と表現することで、ラップのメディアとしての重要性を説いていたが、ここにきてインターネットというメディアの普及を背景に、PEそのものが完全に一大メディアとなったのである。最新作『Revolvelution』では、彼らのサイトで募集し、世界中からのフィードバックによりオンライン上のやりとりのみで作り上げられたリミックス曲がひとつの核となっている。時代の流れにやや先回りするかたちで、照準をあわせる相手をより鮮明にしていきながら、PEは革命を続けてゆくのである。

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2002年08月22日 16:00

更新: 2003年03月13日 18:47

ソース: 『bounce』 234号(2002/7/25)

文/小林 雅明

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