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Been There, Done That

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2010年09月22日 17:59

ソース: bounce 325号 (2010年9月25日発行)

文/林 剛

 

マイクを武器にしたビラルのニューエスト・ソウル

 

ビラルがおよそ10年ぶりとなる新作『Airtight's Revenge』をリリースした。フィラデルフィア出身のビラルは、ちょうどネオ・フィリー・ムーヴメントが盛り上がりはじめた2000年代初頭に登場し、その〈同期生〉という感じでミュージック・ソウルチャイルドとよく比較された。実際にミュージックの『Soulstar』(2003年)では共演もしていたふたりだが、主にNYで活動していたビラルは音楽的にはより多彩で、フィリー勢のなかでは少し異端な存在だったと言える。ファースト・アルバム『1st Born Second』(2001年)にもフィリー勢の参加はあったものの、ドクター・ドレーやマイク・シティらも参戦したその内容はネオ・フィリー的な路線からはハミ出していて、レゲエ・スタイルの曲も披露。その鋭く甘美なファルセットも含めてプリンスからの影響も窺えたビラルだが、それはジャグアー・ライトによるプリンスへのオマージュ的な“I Can't Wait”で共演していたことからも納得がいく。つまり彼は、特定の枠にとらわれているようなシンガーではないということだ。

ソウルクエリアンズ一派のシンガーだったこともあり、コモンやエリカ・バドゥと共演を重ねてきたビラル。一方で、映画「ファイティング・テンプテーションズ」のサントラでビヨンセとデュエット(映画にも出演)したり、その妹ソランジュとも共演したほか、ジェイ・Z、ゲーム、スカーフェイスなど数多くのラッパーの作品に客演し、ボニー・ジェイムズやテレンス・ブランチャードらのジャズ系作品でも歌うなど、その活動は多岐に渡った。

約10年ぶりの新作(4年前には『Love For Sale』というアルバムがお蔵入りになっている)と言われてもご無沙汰感がないのは、そうした客演仕事などで彼の名前を目にしていたからでもあるのだろう。今回の新作では、ジル・スコット作品で知られるフィリーの名匠スティーヴ・マッキーとの共同制作を中心に、これまでの課外活動で縁を築いた面々がプロデュース/演奏で参加。バックの音は主にバンド・サウンドで、ギターやピアノの音色がロック的な哀愁を醸し出し、そこにジャズのエレメントが加わって、〈ヒッピー的〉とも言えるビラルの持ち味が引き出された感じだ。前作でのドクター・ドレー制作曲に通じる“Cake & Eat It Too”を筆頭に、“Restart”や“All Matter”のようなアップテンポのドライヴィングなナンバー、ノッズと共同制作した物悲しげなミッド“Flying”など、シンプルな音のなかに毒気が混じったような破滅的で耽美的な音世界はまさしくビラルそのもの。シャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティヴ・パートナーズ)が制作し、サンダーキャットことステファン・ブルーナーがベースを披露するスペイシーでハードな“Levels”はそんなムードを象徴する曲だし、テープ逆回転的風なトラックでファルセットを交えるあたりがプリンスっぽい“The Dollar”も彼らしい。“Move On”では、NYの音楽学校でビラルとジャズを学び共演を重ねてきた盟友ロバート・グラスパーがピアノで参戦し、ジャズなフィーリングを注ぎ込む。また、88キーズ制作の“Think It Over”には〈2010年のサム・クック〉といった雰囲気が漂い、いくつかの作品でソウル・クラシックスを生真面目に歌っていた姿を思い起こさせる。

そんな意欲的な新作のリリース元は、写真家のB+が主宰するプラグ・リサーチ。だからなのかアルバム・ジャケットにも主張が込められているようで、かつてブギー・ダウン・プロダクションズが『By All Means Necessary』で引用した、マルコム・Xが銃を片手に窓から外を見張るポーズを模している。銃はマイクになっているが、ビラルはマイクを武器に歌うことで問題提起をしようとしているのだろう。70年代のニュー・ソウルに通じる、どこか内省的な楽曲群からもそのことは伝わってくる。そして、それはまたとてつもなく2010年の気分だったりもするのだ。

 

▼関連盤を紹介。

左から、ビラルの2001年作『1st Born Second』(Interscope)、88キーズの2008年作『The Death Of Adam』(Decon)、シャフィーク・フセインの2009年作『Shafiq En' A-Free-Ka』(Plug Reseach/!K7)、ロバート・グラスパーの2009年作『Double Booked』(Blue Note)、ブギー・ダウン・プロダクションズの88年作『By All Means Necessary』(Jive)

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