こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2011年03月09日 17:59

更新: 2011年03月09日 18:37

ソース: bounce 329号 (2011年2月25日発行)

インタヴュー・文/栗原 聰

 

逃避願望から生まれたサイケデリックな白昼夢

 

 

「名前の半分はフランス語で半分はスペイン語で、〈雄牛と私〉っていう意味さ」。

まずはその奇妙な名前について訊いてみた──トロ・イ・モワはチャズ・バンディックのソロ・プロジェクト。アニマル・コレクティヴ主宰のポウ・トラックスを擁するカーパークから昨年リリースされた『Causers Of This』が各国のメディアで評判となり、前後のいくつかのカセット作品やEP(マイケル・ジャクソンのカヴァーもあった)、コンピ『F*>k Dance Let's Art: Sounds From A New American Underground』にも曲を提供するなど、チルウェイヴ/グローファイを代表する重要なアイコンとなった。この2月、注目のセカンド・アルバム『Underneath The Pine』をリリースしたばかりのチャズに、メールで話を訊くことができた。

「フーティ&ザ・ブロウフィッシュと同じ町出身のブラックとエイジアンのハーフってとこだね」。

米東海岸サウスキャロライナ州のコロンビアを拠点とし、アフリカン・アメリカンとフィリピーノの混血だというチャズ。オールディーズやニューウェイヴに親しみ、次第にウィーザーなども聴くようになったという彼は、2001年頃からベッドルームで曲を作りはじめ、バンドを組んだこともあったという。大学ではグラフィック・デザインの学士号を取得したこともあり、現在では作品のアートワークからウェブ広告までみずから手掛けている。音楽以外にも「デザインやファッションには刺激されるものが多いな」とか。そんなチャズにとって音楽活動そのものはどんな存在なのか。

「すべては逃避したい願望だと思う。もし自分の聴いている音楽が心に映像を生み出すものでないのなら、それは僕にとっては良いことなしってことさ」。

ハードルを高くキープするためにも、早めに新作の制作に取りかかったのだという。

「新作では、サンプルから距離を置いて、伝統的なレコーディング方法を採りたいと思っていたんだ。この作品を作っていた時期は70年代の映画音楽や作曲家の作品をよく聴いていたんだけど、もともとその時代のサウンドがすごく好きでね。これを再現したい!って」。

温故知新という言葉を思い出させるようなローファイでレトロな風合いは、彼の個性でもあり、チルウェイヴの特徴でもある。新作は〈スペース〉を意識したとか。

「前作にはそんなにスペースがなかった。でも今回はまったく違った方向に行きたかったんだ。それから、質感にもこだわったよ。最初にレコーディングした時に、風合いみたいなものがかなり欠けている気がしてね。だから、いったん見直して、何曲か加えてみたらハッキリと変わったよ」。

「実は今朝もベッドルームでレコーディングしてきたんだ」とのことだが、新作は最終的にスタジオで仕上げられている。

「デジタル8トラック・レコーダーで録って、スタジオでミックスした。変わった手法とか、そういった類いのことは一切なしの、スタンダードな方法さ。でも、スタジオで作業する行為は僕にとってひとつの変化と言えるね。最初自分でミックスした時、何か間違ってる気がしたんだ。でも、スタジオでミックスした後は一気に開けたよ」。

よりソウルフルでダンサブルな曲が増えた印象がある。サイケデリックな歪みもあれば、心地良い浮遊感に包まれたり、エクスペリメンタルな驚きがあったり……いろいろな言葉が浮かぶ、白昼夢のようなポップ作品。新作で確実にブラッシュアップされたトロ・イ・モワを確認できる。

「僕がいちばん気を遣っているのはリズムとメロディーだと思うよ」。

アンダーグラウンド云々となると距離を置きがちな人も少なくないかもしれないが、もったいない。これからの季節にはもってこいの最高に気持ち良い一枚だ。じゃ、もし可愛い女の子が近寄ってきて〈あなたの音楽はどんなの?〉って訊かれたらなんて答える?

「ファンキーでサイケデリックなポップ・ミュージック!」。

 

関連リンク

インタビュー