OUT OF CAN――主要メンバーのソロ・ワークを駆け足でおさらい
カン以降の個別活動は、バンド全体の初期衝動の元であった偶発性と各々の特性を等しく追求しているようで興味深い。まずは、本文にもある通り音響/編集面でわが道を突き進んだホルガー・シューカイ。ラジオでたまたま受信したコーランの録音テープを切り貼りした脱力エキゾ・ポップ“Persian Love”はサントリー製品のTVCMやスネークマンショー『死ぬのは嫌だ、恐い。戦争反対!』にも起用されており、同曲収録の80年作『Movies』は彼の代表作となっている。さらに81年にはPhewの初作の録音にヤキ・リーベツァイトやコニー・プランクらと共に参加、2006年にはPOLYSICSのシングル“You-You-You”でリミックスを手掛けたりと、日本との縁は深い。コラボ関連では、ヤキ、P.I.Lのジャー・ウォーブルと共に『Full Circle』(84年)を制作。ここでは暗黒ディスコ・ダブな冒頭曲をはじめ、人力サンプリング的なテープ・コラージュを堪能できる。また、88〜89年に発表されたデヴィッド・シルヴィアンとの2作品では深遠なアンビエント世界を構築しており、後者にはヤキとミヒャエル・カローリのクレジットも。
そのカローリは、UKの女性シンガー、ポリー・エルテスと組んだ95年作『Deluge』でネイキッドなレゲエ〜ダブ・サウンドを披露。そしてヤキは、他にもブライアン・イーノやデペッシュ・モード作品で独自のビートを響かせながら、自作も継続的に発表。バーント・フリードマンとのタッグはアフロもエスノも越境したリズム・オリエンテッドな楽曲+ダブ処理な作風で、昨年『Secret Rhythms 4』をリリースしたばかり。また、ヤキが中心のファントム・バンドでも土着的な無国籍ビートと冷却シンセでミニマル&ドープな音世界を構築している。
イルミン・シュミットは、ヴィム・ヴェンダース監督作品をはじめとした映画音楽やオペラ曲を手掛け、日本ではmito(クラムボン)のソロ・プロジェクト=dot i/oの処女作を共同プロデュース。一方で、ピアノと攻撃的なリズムが丁々発止を繰り広げるクモとのユニットで、自身も不穏なスリルを孕んだビート・ミュージックを志向し、P.I.Lのトリビュート盤にも名を連ねている。
最後に2人の歌い手のその後だが、マルコム・ムーニーはそれほど多くの作品に関わっておらず、アンディ・ヴォーテルの2002年作『All Ten Fingers』に招かれた他は自身のバンドと共に2作品を発表。ダモ鈴木は、世界中を巡って各地のミュージシャンとセッションを行い、その成果を銀盤に刻み続けている。なかにはロンドンを拠点とする逆輸入バンド・BO NINGENやsgt.、KILLER BONGら邦人バンドとの音源も。また、日本盤限定だがオマー・ロドリゲス・ロペスの2007年作『Please Heat This Eventually』でのコラボなど、神出鬼没の活動が彼らしいところだ。
▼関連盤を紹介。
左から、ホルガー・シューカイの80年作『Movies』(Mute/Spoon)、ミヒャエル・カローリ&ポリー・エルテスの95年作『Deluge』(Mute/Spoon)、ホルガー・シューカイ&ジャー・ウォーブル&ヤキ・リーベツァイトの84年作『Full Circle』(Blue Plate)、イルミン・シュミット&クモの2001年作『Masters Of Confusion』(Mute)、dot i/oの2006年作『Declaration of the Independence of the imagination and the Rights of Man to His Own Madness II』(Pヴァイン)、sgt. with Damo Suzukiの2008年のライヴ盤『LIVE at shimokitazawa ERA 2007.03.02』(Penguinmarket)、オマー・ロドリゲス・ロペスの2007年作『Se Dice Bisonte, No Bufalo』(Gold Standard Laboratories)