こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2012年11月28日 20:20

更新: 2012年11月28日 20:20

ソース: bounce 350号(2012年11月25日発行)

文/高橋芳朗

 

GOOD BOY GONE...――今年最後にして最高の大傑作! ケンドリック・ラマーの魅力とは?

 

 

2012年のヒップホップ・シーン最大の話題作、ケンドリック・ラマーのメジャー・デビュー・アルバム『Good Kid M.a.a.D City』の反響が凄まじいことになっている。USの初週セールスは今年のヒップホップ作品トップのニッキー・ミナージュ『Pink Friday: Roman Reloaded』(25万3,000枚)に肉薄する24万2,000枚を記録、全米アルバム・チャートではテイラー・スウィフト『Red』に次ぐ初登場2位をマークするなど、前評判通りの堂々たる数字を叩き出しているが、驚かされるのは商業的な成果よりもむしろ批評家筋からの圧倒的とも言える評価の高さだ。XXL誌での最高スコア奪取やPitchforkでの2012年ヒップホップ最高得点となる9.5ポイント獲得に象徴されるように、レヴュー集積サイトのMetacriticが発表したアルバムの平均点は今年のヒップホップ部門ダントツ1位の91点(2位のキラー・マイク『R.A.P. Music』は85点)。これは近年の例でいくとカニエ・ウェストの2010年作『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』の94点に迫る高得点になる。

 

マッド・シティのグッド・ボーイ

〈ギャングスタ・ラップの聖地〉とされるカリフォルニア州はコンプトン出身の25歳、スクールボーイQやアブ・ソウル、ジェイ・ロックらと組んだブラック・ヒッピーの一員であるケンドリック・ラマーの躍進は、『Kendrick Lamar EP』(2009年)や『Overly Dedicated』(2010年)といったミックステープが生み出したバズをベースに、XXL誌の名物企画〈2011 Freshman Class〉への選出、インディペンデント・アルバム『Section.80』(2011年)の高評価などの積み重ねの上に成り立っているものだが、昨年8月にLAで開催されたコンサートのステージ上、ドクター・ドレーとスヌープ・ドッグとゲームという西海岸ヒップホップの要人から〈New King Of The West Coast〉の称号を授かった事実上の戴冠式が現在のこの状況をもたらした決定打になっている。その後、今年3月にはケンドリックが所属するトップ・ドッグとドレー主宰のアフターマスとのジョイント・ヴェンチャー契約が締結。そのドレーをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎えて『Good Kid M.a.a.D City』を作り上げた。

ここで強調しておかなければならないのは、ケンドリック・ラマーが〈コンプトン〉〈ドクター・ドレー〉〈西海岸ヒップホップの新帝王〉といったキーワードから連想されるラッパー像とはちょっと趣を異にしている点だ。DJクイックの諸作をフェイヴァリットに挙げ、今回のデビュー・アルバムでもMCエイトとの共演を果たしているケンドリックは、コンプトン・ヒップホップの伝統継承者としての自覚と誇りがあることをあきらかにしてはいるものの、いわゆるギャングスタ・ラップのカテゴリーに分類されるタイプのラッパーではない。『Good Kid M.a.a.D City』というアルバム・タイトルはそんなケンドリックが以前よりたびたび口にしてきた言わばキャッチフレーズのようなもので、両親の寵愛を受けて暴力やドラッグから距離を置いて育った彼はまさに〈コンプトンという名のマッド・シティからやってきたグッド・ボーイ〉というわけだ。

 

2012年の気分

ヒップホップ新時代の胎動を伝えるSPIN誌2011年12月号の特集〈The Changing Face Of Hip Hop〉でケンドリック・ラマーと共に表紙を飾ったエイサップ・ロッキーは、先頃、彼を〈俺たち世代のナズ〉と評していたが、そのナズのデビュー・アルバム『Illmatic』と比較する声も多い『Good Kid M.a.a.D City』の魅力はケンドリックのストーリーテリング能力の高さによってもたらされているところが大きい。〈A Short Film By Kendrick Lamar〉とのサブタイトルが冠せられたアルバムは17歳のケンドリックのメモワールになっていて、ポスト・レーガン時代のコンプトンで生活する青年の葛藤が、魅惑的な女の子シェレーンやギャングスタ・ライフに憧れる無軌道なホームボーイたちとの交流を通して生々しく繊細に描かれている。アルバムのクライマックス、さまざまな思いを抱えながらみずからの人生と生まれ育った街を祝福する“Compton”に辿り着いたときの感動とカタルシスは格別だ。

ケンドリックが〈This Is A Dark Movie Album〉と紹介する『Good Kid M.a.a.D City』の内省的な世界観を支える制作陣は、『Section.80』でもメインを張っていたトップ・ドッグのハウス・プロデューサーであるサウンウェイヴ以下、ファレル、ジャスト・ブレイズ、ヒット・ボーイ、ビジネス、T・マイナス、スクープ・デヴィル、テラス・マーティンなど。アイス・キューブ“A Bird In The Hand”を想起させるオーセンティックな西海岸ギャングスタ・サウンドのオマージュ“M.a.a.D City”を除くとほぼ全編が幻想的でメランコリックなトーンで統一されていて、“The Recipe”でのツイン・シスター“Meet The Frownies”や“Money Trees”でのビーチ・ハウス“Silver Soul”といったドリーム・ポップのサンプリングなど、ヒップホップのトレンドのみならず昨今のインディー・ロックの動向にも呼応したプロダクションが素晴らしい。ケンドリックの成長譚の〈劇伴〉としてのマッチング具合も完璧と言っていいだろう。

早くもクラシックとの呼び声高いアルバムに寄せられる熱狂的なリアクションに対して、「時期尚早」と一貫してクールな態度を崩さないケンドリックだが、ドレイクだったりオッド・フューチャーだったりクラウド・ラップだったりを通過した2012年のヒップホップ・シーンの気分をここにきていとも簡単にすくい上げてみせた『Good Kid M.a.a.D City』は、登場のタイミングからしてすでに〈ただの名盤〉を超えた風格がある。これによって今年リリースされたほかのブラック・ヒッピー作品、スクールボーイQ『Habits & Contradictions』とアブ・ソウル『Control System』の見え方も確実に変わってくるだろう。ゲームの行方は、間違いなく彼らに傾きつつある。

 

▼『Good Kid M.a.a.D City』に参加したアーティストの作品。

左から、ドクター・ドレーの92年作『The Chronic』(Death Row)、MCエイトの2007年作『Representin'』(Native)、メアリーJ・ブライジの2011年作『My Life II...The Journey Continues(Act 1)』(Geffen)、ドレイクの2011年作『Take Care』(Young Money/Cash Money/Universal Republic)

 

▼ケンドリック・ラマーの客演作品を一部紹介。

左上から、K・ドット名義で参加したラッパー・ビッグ・プーの2009年作『The Delightful Bars』(Hall Of Justus)、スモークDZAの2011年作『Rolling Stoned』(ihiphop)、テック・ナインの2011年作『All 6's And 7's』(Strange Music/RBC)、ゲームの2011年作『The R.E.D. Album』(Geffen)、ケイシー・ヴェジースの2011年作『Sleeping In Class: Deluxe Edition』(Traffic)、9thワンダーの2011年作『Wonder Years』(It's A Wonderful World Music/Traffic)、E-40の2012年作『The Block Brochure: Welcome To The Soil 3』(Heavy On The Grind)、ZZウォードの2012年作『Til The Casket Drops』(Hollywood)

 

インタビュー