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ふと聴いてしまった3枚——Selected by 小松健一郎

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年01月23日 17:59

更新: 2013年01月23日 17:59

文/小松健一郎



ふと聴いてしまった3枚——Selected by 小松健一郎



No.1 NICK ROSEN 『Violet』 Porter

No.2 SUN ARAW 『Inner Treaty』 Drag City

No.3 CHICANO BATMAN 『Joven Navegante』 BARRIO GOLD



No.1〜3について

2012年ふと聴いてしまうことが多かった作品。個人的に西海岸ものは昔から贔屓にしてしまう癖があるのだが、カルロス・ニーニョ率いるビルド・アン・アークやパン・アフリカン・アーケストラへの参加でも知られる、LAが誇る若き鬼才ベーシスト&コンポーザー、ニック・ローゼンの2作目は本当に良い。大傑作だった初作の路線を引き継ぐ内容で、ニック・ドレイクやエリオット・スミスを思わせるアシッド・フォーク、パリス・カーニーをフィーチャーした儚い木漏れ日系フォーク、フェンダー・ローズが響くレイドバックしたネオ・ソウルなど、スタイルはさまざまだが全編を貫くのは夕焼けを感じさせるスピリチュアル・ジャズの精神。前作よりも幅広い音楽性とジャズのナチュラルな邂逅をさらに押し進めた、彼のポップ・サイドが色濃く出た内容だ。個人的には70年代のデヴィッド・クロスビーやテリー・キャリア(R.I.P.)の名作を思わせる。21世紀のスピリチュアル・ジャズ名盤と誉れ高い前作と比べて地味と言われているけど、私的にはふとリピートしたくなるバランス感と、シンプルさのなかに奥行きを感じさせるアレンジと共に本作を愛したくなるのだが。2013年以降はプロデュース・ワークにも注目したいところ。

また、2012年にいちばん考えることの多かったサイケデリック番長ことキャメロン・スターンズ=サン・アロー。伝説のレゲエ・グループ、コンゴスとのエコー・エコー&ドゥープな共演盤を経てのオリジナル・アルバムだ。とにかく気が抜けている、腰が入ってない。ジャマイカでの滞在は決して無駄ではなかったと思わせる新境地ダブ・ロック怪作となっており、どうやらユルさを極めてしまったようだ。〈抜きの美学〉とも言えるダブの手法から、さらに覇気を抜いてしまうことで突然変異なものを作り上げてしまった。これは発明なのかもしれない。コリコリとしたリズム、瑞々しいエレピもとにかく気持ちが良く、レイドバックなど生易しいものではない。最大級の賛辞を贈るのならば、フランク・ザッパ級のいい湯加減とも言えるだろうか? 共犯者として、マスタリングに元スペースメン3のソニック・ブームを引き続き召喚。サイケデリック好事家らしい痒いところに手が届く的な音処理は、彼ならではの仕事であろう。なぜかファラオ・サンダースのカヴァー“The Summum”も収録……。サイケデリック・ロックもダブも手法的に出尽くしたであろうと思っていた2012年、まだまだこんな一手もありますぜと微笑んでくれたのがサン・アローだったのです。

最後は、何となく鼻歌で “Joven Nabegante”を口ずさみながら、〈この歌誰だっけ?〉と60~70年代のトロピカリズモや南米サイケに思いを馳せることも多々あった、〈LAのゆらゆら帝国〉と称されることもしばしばな新世代トリオ、チカーノ・バットマンのミニ・アルバム。前作の夢見心地なメロディーはよりユルさに磨きがかかり、脳内でトグロを巻くようなワウ・ギターなんかもう芸術品の域である。このシンプルなアシッド感はゆらゆら帝国というより、坂本慎太郎の傑作『幻とのつきあい方』と類似していると個人的には思う(チープな鍵盤使い、シャッグスを思わせるスカスカな音作りは特に)。それとは別に、彼らの凄さはそんなノスタルジックな音楽性とは裏腹な、陽気なストリート感があるところ。同じLAならトミー・ゲレロからマッドな要素を抜いた感じに近いかもしれない(ドープさはそのままに)。この生々しい様はラティーノ人口の多い横ノリ文化の西海岸ならではの感性なのかも。ただのユルくだらしないサイケなら、こんなアシッド感は出せやしない。ギリギリの均衡を保つ境界線キワキワのロックだから、本物の揺らぎが出せるのだ。



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