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カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年02月27日 18:01

更新: 2013年02月27日 18:01

ソース: bounce 352号(2013年2月25日発行)

構成・文/出嶌孝次

 

旋律の貴公子、いよいよ降臨――容赦なくポップなダンス・ビートを身体中で体感したなら、世界のどこにいようとそこがダンスフロアなんだゼッド!

 

Zedd_A360

 

全米〈上陸〉によって〈EDM〉というワードに過剰な意味と権威が付与され、普通に長く活動してきたダンス・ミュージックの作り手たちも以前とは色味の異なるスポットを浴びるようになった昨今。次のデヴィッド・ゲッタ、次のデッドマウス、あるいは次のスクリレックスを求めるメインストリームの思惑も相まって、もうしばらく好景気は続いていくことだろう。そんんななか、ジミー・アイオヴィンからスタジオを提供され、ジャスティン・ビーバーやレディ・ガガとの仕事が次々に決まるなど、インタースコープを上げてバックアップされているのがゼッドだ。とはいえ、彼の足取りは、同じ言葉で括られるタイプのクリエイターとは少し異なっている。

「DJを始めたのは18とか19歳の頃だから遅いよね。それまでは曲作りやプロデュース優先でDJするなんて考えたことなかったし、そういうシーンにハマったこともなかった。でも結果的にスタートして勉強しはじめたのは、それが自分の音楽を表現するのにいちばん良い方法だったからなんだ」。

つまり、もとからクラブ・カルチャーやパーティー・シーンに興味があったのではなく、楽曲を作っていった結果、それがダンスフロアにハマるものだったという順序なのだろう。初めて買ったCDだというダフト・パンクの『Discovery』を聴いた時も「プロダクション的な部分ではなく、音楽的な面に興味を持った」というからおもしろいが、そうした視点は彼の生い立ちに関係しているようだ。

 

こんな音楽が作りたい!

「音楽と、たぶんゲーム以外に得意なものがないんだ(笑)。ビデオゲームは自分じゃ作れないから、ある時点でミュージシャンになろうと思ったんだよ」。

そう明かすゼッドことアントン・ザスラフスキ。ロシア生まれで現在23歳の彼が育ったのは、子供の頃に引っ越したドイツのカイザースラウテルンという街だという。「生まれた時から音楽といっしょだった」とも述懐する彼は、ミュージシャンだった両親のレッスンで幼い頃からクラシック音楽を学び、早くからピアノをマスターして作曲にも取り組んでいたそうだ。

「5歳くらいに最初の何曲かをレコーディングしたテープがある。そのうちの凄く気に入ってる1曲をプロデュースするっていうミッションが僕にはまだ残ってるんだよ(笑)」。

教会で一家揃って楽器を演奏することもあったそうだが、ティーン時代に嗜好は一転、ディオラミックというバンドでドラムスを担当するようになる。本人いわく「兄弟もメンバーにいて、ミューズっぽい音楽をやってたんだ。ただ、僕らはクラシック音楽に影響を受けてたから、演奏がどんどんメシュガーっぽくなっていった」と当時は根っからのテクニック志向だったそうだ。そうやってバンドを続けるなか、ジャスティスの音楽を耳にしたことで「こんな音楽が作りたい!と心から思った」ことでダンス・ミュージックに興味を持つようになった彼は、ゼッドを名乗りはじめる。

「ショウが決まったから名前が必要になって、名字から頭文字のZを取ってこの名前にしたんだよ。これでいいや、って思った。大事なのは音楽だからね」。

 

音楽で達成したいこと

オンラインでメッセージを送ったスクリレックスにリミックスを採用されて彼主宰のOWSLAから“Shave It”を発表、前後してスティーヴ・アオキの率いるディムマックからもシングルを発表したのが2011年。翌年にはブラック・アイド・ピーズのリミックスで縁のあったインタースコープと契約し、〈SONICMANIA〉も含めて2度の来日も経験している。トントン拍子ではありつつもまだまだ始まったばかり。そんな彼の現在を確認できるのが、このたび日本盤の登場するファースト・アルバム『Clarity』だ。

期待のマシュー・コーマが歌うヒット・チューン“Spectrum”を筆頭に、ライアン・テダーやエリー・ゴールディングを配したマイルドなヴォーカル・トラックが中心。極端にエクストリームな意匠が凝らされているわけでもなく、インストでも極度にヒプノティックにならず、エッジーさと親しみやすさのバランス取りが巧みなのは、コードから曲作りを始めて後でビートを当てはめていくというソング・オリエンテッドな作法の産物かもしれない。また、アルバムのフォーマットを意識した作りも伝統的な〈アルバム・ミュージシャン〉志向を窺わせる。

「どの曲をどの場所に置くべきか早い段階から考えてた。それは曲にとって大切なことだし、それぞれの曲が意味を持ってるから、適当に入れ替えたりできないんだ。ジェットコースターで上から一気に落下して、そのままじっとしてるなんてイヤだろ? 映画を観てシナリオが最高なら、また観たくなるよね?」。

さて、〈ポップス〉のフォルムを旧来の形に止めておいて何かが出てくると異物として処理しようとする送り手やメディアの(無)意識が、普通に音楽を楽しむ聴き手とズレまくっている昨今。どことなく彼と出自が似て思える中田ヤスタカ(実際に“Shave It”などは数年前のcapsuleを想起させる)も〈自分の音がそのままJ-Popになればいい〉という意をかつて語っていたが、ゼッドの志向もそこに近いように思う。クラブのオーディエンスのために普通に機能しながら、広く大衆の支持を集める普通のポップスとしてそのまま受容されているのが現在のEDMなのだ。ゼッドはそんな現況を代表する存在でもある。

「“Spectrum”は昔やってたこととは違うから友達のリアクションが不安だったけど、自分では大好きだと思った。その時に気付いたんだよ。もし音楽そのものが良ければ何も心配ないって。ジャンルもBPMも、とにかく何も不安になる必要はない。ただ心に触れたならそれでいいんだよ。どんな曲であれ、特別な何かを感じることができたら必ずもう一度聴きたくなる。〈“Spectrum”を聴くとハッピーになる〉って声をたくさん貰ったけど、僕が音楽において達成したいのはそれなんだ。このアルバムのすべてのコンセプトは感情、そして音楽だよ」。

 

▼関連盤を紹介。

左から、ダフト・パンクの2001年作『Discovery』(Virgin)、メシュガーの2002年作『Nothing』(Nuclear Blast)、ジャスティスの2007年作『†』(Ed Banger/Because)

 

▼『Clarity』に参加したアーティストの関連盤を紹介。

左から、ライアン・テダーが在籍するワンリパブリックの2009年作『Waking Up』(Mosley/Interscope)、マシュー・コーマが参加したファー・イースト・ムーヴメントの2012年作『Dirty Bass』(Cherrytree/Interscope)

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