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illion ROCKS TOKYO

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年03月06日 17:59

更新: 2013年03月06日 17:59

ソース: bounce 352号(2013年2月25日発行)

文/金子厚武



野田洋次郎のソロ・プロジェクトが日本に逆上陸!! 



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〈TOKYO ROCKS〉出演の第1弾アーティストとして、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインらと共にその名がアナウンスされたillion。言わずと知れたRADWIMPSのフロントマン、野田洋次郎のソロ・プロジェクトである。彼のデビュー・アルバム『UBU』は、〈TOKYO ROCKS〉のキュレーターでもあるアラン・マッギーが立ち上げた新レーベルより、まず2月にUKとアイルランドで、その後、3月に日本でもリリースされ、さらには現時点でドイツとフランスでのライセンスも決定している。言わば、illionは逆輸入の形で日本に上陸し、〈TOKYO ROCKS〉のステージに立つのだ。



マイノリティーとして

では、なぜ野田はこのタイミングでソロ・アーティストとしての始動を決意したのか? UKの音楽誌「NME」が、〈東京からトム・ヨークへの回答〉と題して掲載したインタヴューのなかで、彼はこんなふうに答えている(以下、発言部分はすべて同誌からの引用)。

「せっかく音楽を作っているなら、国外でやってみたかったというのがあります。そしてそれは20代のうちにやりたかった。バンドを始めてからずっと、どこか自分たちのホームグラウンドでない環境で演奏するのが好きでした。小さい頃アメリカに住んだ経験があって、その頃は自分はマイノリティーだという自覚がありました。いつも自分はマイノリティーだという自覚があるので、マジョリティーになるのは落ち着かないです」。

日本のロック・シーンにおける〈マジョリティー〉の立場をみずから投げ打って、海外で一から勝負する道を選んだ現在27歳の野田。アルバムに先駆けて発表された“BRAIN DRAIN”を筆頭に、多くの曲が英語で歌われているのも当然と言えよう。

「英語は確実に世界共通言語として世界中の多くの人々が理解できるし、僕がただ英語の響きが好きだということもあります。英語という言語は、日本語では引っ張り出せないメロディーを引き出してくれる楽器のようなものだと思います」。

さて、「NME」はillionをトム・ヨークと比較しているわけだが、その指摘は決して的外れなものではないだろう。“BRAIN DRAIN”における抑え気味のハイトーン・ヴォイスや、ヴァイオリンと鍵盤をフィーチャーしたアレンジは、レディオヘッドの“Pyramid Song”が引き合いに出されるのも十分頷ける。ピアノをメインに据えたクラシカルな雰囲気は『UBU』全体の特徴でもあるし、さらに言えば、バンド・サウンド的なアプローチを排し、エレクトロニカ〜IDMの影響を感じさせるミニマルな色合いがアルバムに通底していることも、トムの好みに近いと言える。とはいえ、そこはRADWIMPSのフロントマン。要所ではヘヴィーなギターを用いてダイナミズムを生み出してもいるし、暖かみのあるポップなメロディーも持ち味のひとつだ。その、特定のジャンルにカテゴライズすることが難しい音楽性は、かつて渋谷系が欧米のポップ愛好家にも好まれたように、〈日本人らしい編集感覚〉として紹介されるかもしれない。



海外で活動すること

もう一点、『UBU』を語るうえで外すことができないのは〈和〉のテイストである。多くの曲が英語で歌われてはいるものの、“AIWAGUMA”と“MAHOROBA”、そして“GASSHOW”の3曲は完全に日本語詞であり(古語の使用も多い)、かつ英詞曲のなかにも言葉遊び的に日本語が盛り込まれている。野田はワールド・デビューが報じられた際、〈日本を紹介するために海外に向けて音楽をやっていきたい〉とも語っており、“AIWAGUMA”が祭囃子風だったり、“GASSHOW”がまるで雅楽のようだったりするのは、そんな思いの表れだと言えよう。しかし、決してエキゾティシズムを全面に押し出しているわけではなく、illionを構成する要素のひとつとして使われていることからは、日本人としてのアイデンティティーを表明しながらも、海外のアーティストと同じ地平に立とうとする野田の強い意志が感じられる。歌詞の内容にしても、新しい環境へと一歩を踏み出す自身の心境を綴ったものもあれば、RADWIMPSらしい〈君と僕〉の世界観のものもあり、つまり『UBU』というアルバムは、あくまで野田らしいやり方を貫いた音楽によって国境を飛び越えていこうとする、非常に挑戦的な作品なのである。

「海外で活動することは僕の夢であり、ゴールだけど、でもそれはバンドとしての夢ではないんだ」との言葉通り、illionとして臨む初ライヴは、3月17日にロンドンで行われることが決定している。では、『UBU』の楽曲はどのような編成で演奏されるのだろうか? 『UBU』は野田がすべての演奏を自身で手掛けた作品であるため、現時点でメンバーの予測は一切できない。ここで思い出されるのが、またしてもトム・ヨークの名前である。彼のソロ・アルバム『The Eraser』を演奏するために、あのレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーを含むスーパー・バンド、アトムス・フォー・ピースが結成されたわけだが、果たしてillionではどのようなバンド編成となるのか? いやはや、楽しみは尽きない。



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