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got a brand new bag——愛を知って成長したジェイムズ・ブレイク

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年04月03日 17:59

更新: 2013年04月03日 17:59

ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)

構成・文/出嶌孝次

 

愛を知って成長したジェイムズ・ブレイク

 

「カニエ・ウェストが、ヘッスル・オーディオから出した僕のEPをジェイ・Zやスティーヴィー・ワンダーに聴かせたという事実が、僕の視野を広げてくれた。ある意味解放されたところもあって、自分の音楽を区別することをやめたんだ。トラックをヘッスルからリリースしてもいいし、それをMCに送ってもいいって知った。境界線が消えたんだ」。

当初、多くのリスナーにはいきなりの新人お披露目に近かっただろうファースト・アルバム『James Blake』だったが、その大ヒットと、世界的な人気の広がりに伴うツアーの敢行によって、ジェイムズ・ブレイクの知名度は飛躍的に上昇していった。一昨年の日本ツアーが話題を呼び、昨年は〈フジロック〉でヘッドライナーを務めたことも記憶に新しいだろう。そんな状況も手伝って〈噂の存在〉はアーティスト間でも話題となったと思われる。ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンとの共作もその一環だろうし、ある日カニエ・ウェストにスタジオへと呼び出されたジェイムズがヘッスル・オーディオからのEP『Love What Happened Here』を聴かせたところ、冒頭の発言のような結果に至ったのだそうだ。

そして、それ以上にジェイムズ本人にとって誉れだったのは、LAでショウの客席にジョニ・ミッチェルが現れたことに違いない。彼が“A Case Of You”のカヴァーも披露していることは付け加えるまでもないだろう。

「彼女は賢人なんだ。会っただけで、いろんなことを学ぶことができた」。

ショウの後にジョニと話をしてさまざまなインスピレーションを授かった彼は、ロンドンに戻る機内で一曲を書き上げたのだという。〈僕はスターではなくて、海岸に落ちている石、闘いの中で孤立した扉になりたい〉――そう優美に歌われる“Overgrown”は結果的にセカンド・アルバムのタイトル・トラックとなった。

「これまで書いた楽曲のなかで、いちばん良い作品になったと思う。それに新しいアルバムのなかでもいちばん強いメッセージ性がある。ジョニは僕の思いを具体化してくれた。あの曲を作る閃きとなってくれたんだ」。

 

 

また、曲作りの閃きを多く司ったという意味では、LAでのツアー中に出会った現地住まいのガールフレンドの存在も欠かせない存在のようだ。だからやたらLAでのエピソードが多いのか……と思うと微笑ましくもあるが、大西洋の向こう側にいる彼女への思いは、作中の端々から飛び出してくる重要な要素でもある。

「彼女がいなかったら、さまざまな変化の勢いに押されて、普通でいることや幸せを感じることも難しくなっていたと思う。今回のアルバムは、初めて誰かを愛するときの気持ちと、その実際の意味を理解しようとする想いでいっぱいなんだ。そういったものが僕の音楽の一部となっていくんだよ」。

そんなパーソナルな思いも込めて、2年ぶりに登場するセカンド・アルバム『Overgrown』。収録曲を仕上げる際には、ライヴでオーディエンスから得た実感や、そこからの反省が活かされているのだという。短絡的にまとめてしまえば、人に聴かせるということへの開かれた意識が、ベッドルームで完結していたソングライティングに新たな視点を持ち込んだ……という言い方をしてもいいのかもしれない。

「本能的に、みんなが覚えてくれて愛してくれる音楽を作りたいっていう強い気持ちが芽生えた。感情的なインパクトを与えることを望んだんだ」。

ソングライティングとサウンド制作、ヴォーカルのすべてを基本的にジェイムズがひとりで担うという構成は前作と変わらないが、『Overgrown』には彼自身の望んだゲストも参加している。NYで録音した“Take A Fall For Me”にはウータン・クラン総帥のRZAが乞われて客演。シンプルなビート上をジワジワとにじり寄るようなラップをスピリチュアルなコーラスが彩るヒップホップ・トラックに仕上がっている。また、マネージャーの薦めでコラボに至ったブライアン・イーノとの共作曲“Digital Lion”は、マーチングとフットワークの間をバタバタ駆けるユニークなダンス・トラックだ。

それ以外も野心的な試みはさまざまに導入されていて、表題通りのスペイシーな意匠を纏って飛翔するハウス“Voyeur”、ビートとフロウの絡みが90年代のティンバランドやシェイクスピアっぽい“Life Round Here”、そしてもちろん、旋律が小田和正ライクな先行カット“Retrograde”やローラ・ムヴーラの聖歌を思わせる“To The Last”などソング・オリエンテッドな路線も充実している。ハードな2年をくぐり抜け、みずからのサウンドを「常に進展しないといけない」と言い切るまでタフに成長したジェイムズ。その真価は『Overgrown』を聴いて確かめてほしい。

 

▼関連盤を紹介。

左から、カニエ・ウェストの2008年作『808s & Heartbreak』(Roc-A-Fella/Def Jam)、ボン・イヴェールの2011年作『Bon Iver』(Jagjaguwar)、ジョニ・ミッチェルの71年作『Blue』(Reprise)、RZAが監修した2012年のサントラ『The Man With The Iron Fists』(Soul Temple)、ブライアン・イーノの2012年作『LUX』(War)

 

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