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LAPALUX sings——洗練されたノスタルジーとしての歌

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年04月03日 17:59

更新: 2013年04月03日 17:59

ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)

構成・文/出嶌孝次

 

洗練されたノスタルジーとしての歌

 

 

「リリースしたいトラックがあるんだよ!といった感じのラフなメールを彼らに送ったんだ。その数日後にフライング・ロータス本人からメールが来て、とにかく興奮したね。そのあと彼に手持ちのトラックを送り、話し合いながらリリースする曲を選んでいったんだ。そのとき送ったトラックが『When You're Gone』としてリリースされた。いま考えても本当にクレイジーだよね」。

ブレインフィーダーとの出会いをそのように振り返るラパラックス。日本では昨年フィジカル・リリースされたEP『When You're Gone』は、逸物揃いのレーベルにあってひときわ高い評価を獲得し、UKはエセックスに生まれ育ったという未知の才能に脚光を浴びせることとなった。現在はロンドンに住まう25歳。フライング・ロータスらLA勢のヒップホップに起因するドープネスというよりは、やはり(手法はまったく異なるものの)ジェイムズ・ブレイクともそう遠くないエレクトロニクスの緻密な構築美が彼の持ち味だ。そんなラパラックスは少年時代から機材をいじったりして音楽的な実験を試みていたという。特に彼を惹き付けたのは声の加工だったようで、その興味は現在の作風にもそのまま受け継がれていると言える。

「学校で人の会話をマイク付きのMP3プレーヤーで録音して家に持ち帰って、それを加工したりチョップしたりしてたな。音楽を作るうえで何が好きかって言えば、いつだってそこには新しい創作の方法や、音をコントロールできる醍醐味があるだろう? そういうことが俺をより音楽へ没頭させるんだ。いまのスタイルに辿り着いたのは大学の時にテープ・マシーンを操作しながら、機材をいじっていた時だね。そうしてスタイルを築き上げながら技術にも磨きをかけていった感じだよ。焦点を定めることによって視界も広がっていくしね」。

そうやって腕を磨いてきた彼の、満を持して完成させた正真正銘のファースト・アルバムこそ『Nostalchic』だ。ノスタルジーとシックを結び付けたタイトルは「自分の音楽のジャンルに名前を付けたくて作った造語」とのことで、直訳すれば〈洗練されたノスタルジー〉ということになるだろうか。シックではなくチックと読めば〈懐かしい女の子〉のような甘酸っぱさを喚起させもするのだが、それはともかく。切れぎれになった歌声は遠い過去からの囁きのようでもあるし、記憶が混濁したようなループとレイヤーの連なりは、届きそうで掴めない苺のように甘く切ない何かを思い浮かべさせたりもする。幻想的で儚いハウス・トラックの“Swallowing Smoke”やソウルフルなサンプルの欠片が弾けるジューク“Flower”など、楽曲それぞれの描く風景は多彩。ここでもキーになっているのがトラックの隙間にエモーションごと埋め込まれたかのような〈歌〉の存在なのは言うまでもない。

「例えば、ヴォーカルの音をまるで50年代に録った音のように響かせることもできる。俺はエディットする際にヴォーカルというものを楽器と同列に扱うようにしてるんだよ。声というのは確かに感情を伝えられるものだし、ゲスト・ヴォーカルをトラックと混ぜ合わせて一体にするのが好みなんだ」。

先行シングル“Without You”では“Forgetting And Learning Again”で歌っていたケリー・リーサムをふたたび起用し、ドリーミーな“Dance”ではアストリッド・ウィリアムソンの懇願が性別を超えて上昇と下降を繰り返す。“One Thing”でも野太く歩むベースにまとわりつくジェナ・アンドリュースの歌唱がスウィートだ。そのように声のゲストがいずれも女性なのは、「単純に女性の声が好きなんだよね。音楽を作ってていつも感じるのは、女性の声のほうが自分のトラックに深く突き刺さるし、トラックの持つムードにとてもフィットするから。普段も気付けば男性より女性ヴォーカルの音楽をよく聴いてるしね」という理由だそう。

なお、さっき名を挙げたジェイムズ・ブレイクは自身のソングライティングを下地にしているわけだが、もちろんラパラックスの手法は歌とその伴奏という関係からは自由だ。それでも「“Walking Words”は俺が歌ってるんだよ(笑)。もっとたくさん歌いたいとは思わないけど、トラックを作っててたまに自分の歌がハマる時があるんだ」との言葉通り、自身の声を素材とするアイデアにも発展の余地はありそうに思える。これからの彼がどんな〈歌〉を聴かせてくれるのか、次作への構想もすでに膨らんでいるようだ。

「いまはツアーであちこちを回りながら、次のレコードに向けての作業を進めてる。それともう少し世界中を旅してみたいな。いろんな場所でレコーディングして自分のライブラリーに加えて、それを聴いた時に自分が訪れた場所を思い出せるようにできたら幸せだよね」。

 

▼関連盤を紹介。

左から、ラパラックスの2012年作『When You're Gone』(Brainfeeder/BEAT)、ラパラックスが参加したボノボのリミックス盤『Black Sands Remixed』(Ninja Tune)、フライング・ロータスの2012年作『Until The Quiet Comes』(Warp)

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