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カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年05月01日 18:01

更新: 2013年05月01日 18:01

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次



甘美な酩酊へと誘う、恐るべき童話の世界の住人たち



TheOtogibanashis_A



〈あっちで言えばビースティ・ボーイズ/こっちで言えばオトギバナシ〉——そんなパンチラインを含む“Pool”のMVが公開されたのは、昨年5月のこと。映像そのもののセンスもさることながら、水底でまったり響くような言葉とビートのアトモスフェリックな佇まいが、何とも形容し難いドリーミーな内省に包まれていた。そして、ユーモラスにも奇怪にも響くグループ名……THE OTOGIBANASHI'S。

bim、in-d、PalBedStockの3MCから成るこのグループは、バイオグラフィーによると〈Dis○ey & Rap〉というコンセプトで昨年初頭に結成されたという。同年8月にSUMMIT主催のイヴェント〈Avalanche 2〉にてレーベル入りを発表、そこで配布されたサンプラーに“K.E.M.U.R.I.”のデモを提供した後、今度はMA1LL監督で“Closet”のMVをアップ。その過程において早耳の間での期待感はグングン高まっていたのだが、ここにきてようやくリスナーはそのプールの底を……もしくはクローゼットの奥を……あるいはオモチャ箱の中身を、じっくりと覗き込むことになる。ファースト・アルバム『TOY BOX』がいよいよ登場だ。まずはここまでの足取りを簡単に訊いてみよう。

「“Pool”のMVを作ってから約1年が経つのですが、4年ぐらい経った感覚です。いろいろなことが起こりすぎて(笑)」(bim)。

その約1年はグループのヒストリーとほぼイコール。もともといっしょにクルーを組んでいたbimとin-dが、PalBedStock(初めてのラップが“Pool”のレコーディング!)を引き込む形で結成されたという。

「単純に自分がお客さんの時にグループのほうが好きだったから、自分も組みたいって思ったんだと思います。大人数のほうが楽しいですしね。in-dもPalも自分にはないものを持ってるし、趣味もバラバラだから化学反応が起こるかなと思って誘いました」(bim)。

その化学反応の源泉となる、それぞれの音楽遍歴や映画の好みは以下の通り。

「RIP SLYMEの“白日”を小学生の時に聴いて〈カッコイー〉ってなって、中学の時にクール・キースの“Livin' Astro”のMVにやられました。映画は『スモール・ソルジャーズ』とか好きでしたね。自分がラップするにあたって影響を受けた人って言うと難しいけど、作品づくりの面で(スケーターの)ジェイソン・ディルから影響は受けてるかもしれません」(bim)。

「ラップを聴きはじめたのはウータンからで、自分で始める前から憧れてて影響を受けたのはRHYME BOYA君。音楽はDINARY DELTA FORCEとBLAHMYの2組を特に聴きます。映画は『スカーフェイス』『グッバイ、レーニン!』が熱いです」(in-d)。

「ファーサイド、『トイ・ストーリー』」(PalBedStock)。

bimによるとグループ名は「OFWGKTAの名前を少しサンプリングしました」とのことで、おとぎ話というバンドがいるのは知らなかったのだとか。そうこうして「楽しいレーベル」(PalBedStock)だというSUMMITと契約した彼らは、先述した〈Avalanche 2〉の一週間ほど前から具体的なアルバム制作をスタート。その過程にはライヴ共演など交友も一気に広がったと思われるが、作品への影響はさほどないというのがおもしろい。

「生意気ですが、ライヴとかよりも、ふだんの生活で観る映画だったり着る服だったり、身の回りのモノからの刺激を集めたものが『TOY BOX』だと思ってます」(bim)。

「当初のプランやテーマはbimと話していて、作品自体はそれと少しは変わったところもあるけど満足してますね。コンセプトやテーマをうまく表現しやすいからアルバムは出したかったんです」(in-d)。

「ジャケットや歌詞カード、スキット、MVを含めて世の中に発表したいという気持ちが強かったですね」(bim)。

そうして仕上がった夢の世界は、『TOY BOX』という表題や、“Pool”“Closet”といった〈いれもの〉がキーになっている通り、どことなく部屋の中で聴きたくなるムードに溢れている。

「それは本当に意識しました。一人きりで子供部屋で聴いても、某〈夢の国〉のワクワク感を味わえる作品をめざしました」(bim)。

かの“Pool”は年下の友達だというあらべぇのビートだったが、アルバムで制作の核を担うのも、OTG'SのクルーであるCreative Drug StoreのdooooやVaVaといった身近な仲間たち。特にdooooとbimは徒歩5分の近所に住んでいるそうだ。

「遊んでるうちにどんどんフィールして曲が出来ていきました。本当に恵まれてるなと思います。VaVaも本当に毎日いっしょにいるので、僕の趣味とか理解してくれてて、本当に自然にスキットでアルバムに参加してもらいました」(bim)。

そんなふうに書くと、とりとめなくチルしまくった内容を想像されるかもしれないが(そんな空気も悪いもんじゃないが)、芝居がかった前口上から始まる中身は予想以上にコンセプトが通底し、キャラのかぶらない語り口と三者三様の生活感を投影した詞世界がカラフルな印象へと誘ってくれるはずだ。

「ありがとうございます。楽曲はbimの出したテーマに対しての3人の視点で作り上げました」(in-d)。

「僕のリリックは映画にインスパイアされることが多いです。書くときに僕の部屋でPalBedStockといっしょに映画を流しながら書いたりしてます」(bim)。

そこにさらなる色を加えたのが、モロにOMSBらしいパーカッシヴな“Gana Gana Ganda”とRiki Hidakaによる眩しい晴れチューン“Fountain Mountain”だろう。

「OMSB君とSkypeしてる時に〈OTG'Sに合いそうなビートがあるからあげる〉って送ってくれたのが“Ganna Ganna Ganda”で、速攻使わせてくださいって言いました。僕らがまだ“Pool”しか出してない時に、あんな太くてカッコいいビートを僕らに合いそうって思えるOMSB君は本当にクレイジーだなって心から尊敬してます。Riki Hidaka君はOKAMOTO'Sのレイジくんに紹介してもらいました。そこからちょくちょく遊ぶようになって、音楽とマーク・ゴンザレスの話をしまくった日にめちゃめちゃ楽しくて、いっしょに曲を作りたいってオファーしたんです」(bim)。

そんな充実の内容だが、個々が特に気に入っている曲はどれになるだろうか。

「“Ganna Ganna Ganda”。原住民みたいなイメージの中に自分のいつも思っていることを詰めて作ったっす」(in-d)。

「“Pool”と“Fountain Mountain”ですね。自分で言うのは図々しいですが、ポップだけどトゲのあるところが気に入ってます」(bim)。

「“Under The Bed”。『TOY BOX』で唯一、bimのトラック」(PalBedStock)。

それでも今作は、OTG'Sのポテンシャルの「氷山の一角」(PalBedStock)。「Creative Drug Storeでいろいろ企んでます。その時はいっしょに遊びましょう!」(bim)という予告を楽しみに、まずはここにある夢の世界を耳で遊び尽くしてみよう。



▼プロデュースに参加したOMSBの2012年作『Mr. "All Bad" Jordan』(SUMMIT)

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