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特集

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年05月01日 18:01

更新: 2013年05月01日 18:01

ソース: bounce 354号(2013年4月25日発行)

インタヴュー・文/渡辺志保



かつての黄金ルーキーが魅せる大人のフレッシュネス



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前作『TWICE BORN』から1年と10か月。デビュー当時から日本語ラップ・シーンの新騎手として走り続けてきたSIMONの次なる挑戦は〈己との戦い〉だった。多彩なサウンドを採り入れる反面、ゲスト・アーティストはシンガーのJAY'ED一組のみ。「必要なモノしか入っていない」という本人の言葉通り、サード・アルバム『B.U.I.L.D.』は、ラッパーとして、そして一人の男性として成長したSIMONが、己の可能性を最大限に引き出した濃い内容に仕上がっている。

前作から本作リリースまでの間にも数々の客演仕事をこなし、ラッパーとしてのスキルを磨き続けてきた彼。その成果を見せつけるかのように、リード・シングル“In The Box”では、WISEやRIP SLYMEらを手掛けるプロデューサーであり、自身もエレクトロDJとしてワールドワイドに活躍するSONPUBをプロデューサーとして招いていた。

「もともと、俺がファンで。SONPUBさんのトラックはインストだけで成立している音楽だから、ラップとのバランスを取っていくのが難しかったですね。(フロアで聴いている)お客さんの反応が徐々に良くなっていってるのは嬉しかったし、やって良かったと思いました」。

他にも、NYのエイサップ・モブからエイサップ・タイ・ビーツが楽曲を提供した“Addicted”では全編スクリュー・ヴォイスでラップを披露し、ここでも挑戦的なアプローチを見せる。また、プロデューサーといえばSIMONと同い年であり、彼がラップをスタートした頃からDJとしてキャリアを支えてきたDJ A-KAYも参加。今作を象徴するテーマソングとも言うべき“Own Game”を提供した。「去年の夏に出来たのが“Own Game”で、それがきっかけでアルバムの制作がキックオフした」とSIMONが語るこの曲では、〈夢見てる心は大人じゃない けど ごまかし利くほど子供じゃない〉と彼自身の正直な感情を訴える。

「俺が30歳になって、同世代に向けて何か一曲、書きたかった。30代に入っていく俺らのアンセムを作れたらいいな、と。A-KAYとはそこで凄くリンクしたんです」。

A-KAYの他にも、今回はPVなどの制作現場で同世代のクリエイターをフックアップしている。「こう言うとおこがましいですけど、同じ世代でいまも夢を追い続けられるのは素敵なことだと思っている。俺はみんなにすげえ恩を感じてるから」という言葉からも透けて見えるように、今回SIMONが辿り着いたのは、年齢を重ねた自分を客観的に見つめ直すという作業だったのだろう。

「今回は曲数も凄く削ぎ落として、いいことを言おうとしたりとか、変に無理してるような曲は全部(収録を)やめました。恩着せがましい曲は俺も聴いていておもしろくないし、いまの自分の立場や心境から出てくる本音、本心を曲に落とし込みたかったんですよね。昔はリアリティーとは程遠い表現でセルフ・ボースティングするようなリリックも書いてきたけど、だからこそ、いまはあえてそういうのはやっていない。それは、現在と昔では音楽に対する向き合い方が違うからですね」。

そして、その心境の変化はクラブ・シーンやストリートとの距離感にも表れたようだ。

「いまは実際にクラブの場にいることよりも、そこで得てきたエッセンスをどれだけ自分がクリエイティヴなものに変換できるかを追求して、(クラブ・シーンに)恩返ししていきたいな、と。アルバムを作る間、あえてクラブに行かないようにしたんです。自分がいちばん得意な場所から離れたからこそ、地に足の着いた作品になったというか、よりリアリティーのある内容にできたと思います」。

そう、今回SIMONが追求したのはリアリティーと普遍性だ。就活生やOLなどさまざまな登場人物を曲中で演じることにより、ややもすると取っ付きにくいと思われがちなヒップホップをより普遍性の高い表現へと昇華しているし、聴き手の立場によって歌詞の解釈は幾通りにも楽しめる。

「もっと普遍的な作品を作りたいと、ここ数年すごく思っていた。〈俺〉をラップするだけじゃなく、もっと客観的に、自分の周りにいるような人たちの状況もうまく描写できたらいいな、と。みんなの人生のサントラになってくれたらいいですね」。

そう語りつつ、「できれば次作は1年以内に」、また「もっと肩の力抜いて、ミックステープを一枚作ろうかな」とも語るSIMON。成長と挑戦を糧に、ラッパーとして邁進し続ける彼の姿勢は、どこまでも潔い。



▼関連盤を紹介。

左から、SIMONの2011年作『TWICE BORN』(STREET OFFICIAL/NEW WORLD)、SONPUBの2008年作『80 T.O 08 HAHA』(ユニバーサル)、エイサップ・ロッキーの2013年作『Long.Live.A$AP』(Pologrounds/RCA)

 

▼SIMONの客演した近作を一部紹介。

左から、KOZのニュー・アルバム『TRIAL』(HOOD SOUND/Village Again)、小室哲哉の2013年作『Digitalian is eating breakfast 3』(avex trax)、宏実の2012年作『HONESTY』(Sugabee)

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