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特集

Totally Wired——マリオ・ビオンディのアシッド・ジャズ体験

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年06月19日 18:01

更新: 2013年06月19日 18:01

ソース: bounce 355号(2013年5月25日発行)

構成・文/林 剛



マリオ・ビオンディのアシッド・ジャズ体験



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そもそも〈2013年はアシッド・ジャズ・リヴァイヴァル・イヤーか?〉と思わせてくれたのは、今年2月にマリオ・ビオンディが母国イタリアで発表した新作『Sun』だった。イタリアで国民的人気を誇るシンガーが男臭いフェロモンを振り撒きながら、情熱的かつ豪快な低音ヴォイスでソウル・ジャズを歌った世界デビュー作。マリオと共同でプロデュースを手掛けたのは、先日初のソロ・アルバムを発表したインコグニートのブルーイで、演奏やバック・ヴォーカルにはマット・クーパーらインコグニート一派の面々も名を連ねる。また、先行曲“Shine On”ではブランニュー・ヘヴィーズのヤン・キンケイドがペンを交え、ジャミロクワイ仕事で知られるサイモン・ヘイルがストリングス・アレンジを担当。“Never Stop”では元ガリアーノのスキー・オークンフルといっしょに曲を書いたオマーがデュエット相手を務め、ハウス調のダンス・チューン“Deep Space”ではJTQのジェイムズ・テイラーがハモンド・オルガンを掻き鳴らすといった具合に、往年のアシッド・ジャズ関係者が一堂に会しているのだ。ブルーイの幅広い人脈のおかげで豪華キャストが揃ったアルバムについてマリオは、「昔からブルーイの作品が大好きで、アルバムをいっしょに作るなんて大きな夢が叶ったようだよ。それはまるで2人の時間を切り取ったスナップ写真のようだった」と興奮を隠しきれない。

「完成までに2年かかった国際的な一大プロジェクト」とブルーイが話す『Sun』は、世界的にはまだ知名度の低いマリオの存在をより多くの人に知らせるべく立ち上げた企画だった。その手始めとしてブルーイは、インコグニートの『Transatlantic R.P.M.』(2010年)にマリオを招き、ボズ・スキャッグス“Lowdown”のカヴァーでチャカ・カーンとデュエットさせたのだ。インコグニートはそれ以前にもマリオの曲をリミックスしていたのだが、そもそもブルーイがマリオの存在を知ったのがジャイルズ・ピーターソンのラジオ番組だったというから、ここにもアシッド・ジャズ的な縁を感じてしまう。



世界的に広がっていたアシッド・ジャズ

「生まれながらにして音楽の虜だった」と語るマリオの音楽体験やキャリアも、アシッド・ジャズという言葉を念頭に置きながら振り返ってみると実に興味深い。ソウル・ミュージックを愛するシンガーだった父の導きで12歳の時に初めてステージに上がった彼は、17歳でレイ・チャールズのオープニング・アクトを経験。その後、数々の活動を経てワザビーというユニットでヴォーカルを取るようになるのだが、2004年頃に同ユニットを迎えたスケーマはポスト・アシッド・ジャズを狙って97年にイタリアで発足したレーベルだったりする。そして、ここから2006年に放ったハイ・ファイヴ・クインテットが客演したデビュー・アルバム『Handful Of Soul』ではアル・クーパー曲を、バート・バカラックの書き下ろしを含む2009年作『If』ではギル・スコット・ヘロンの曲をカヴァーしていたように、ここにもアシッド・ジャズからの影響が見て取れる。と、そんな前歴もあっての『Sun』だったのだろう。ブルーイも「何しろアシッド・ジャズはイタリアをはじめ、世界的に受け入れられたからね。だから今回の企画ではリオン・ウェアやアル・ジャロウたちと作業することも重要だったんだ」と話す。

リオン・ウェアは、リオン本人もデュエットした“Catch The Sunshine”とオマーがバックで歌った“There's No One Like You”を、かつてミニー・リパートンの“Inside My Love”を共作していたリチャード・ルドルフ(ミニーの元夫)と共に書き下ろし、センシュアルなムードで70年代の空気を運び込む。マリオは言う、「僕が触発され続けているマーヴィン・ゲイを手掛けたミスター・リオンと仕事をする機会を得たことは、暑い夏の日に爽やかな風が通り抜けるような体験だった」と。一方、アル・ジャロウとは“Light To The World”でデュエット。歌詞を書いたブルーイが「すべての人に対して前向きなメッセージを投げかけた」と話すように、曲全体からポジティヴなヴァイブスが溢れ出す。他にも大御所の客演では、ブライアン・オーガー・オブリヴィオン・エキスプレスやココモで活躍したジム・マレンが“I Can't Read Your Mind”で洒脱なギターを披露しているのも話題だろう。

さらにブルーイが選曲したというカヴァーも、再収録となるボズ・スキャッグス“Lowdown”のほか、ケニー・ランキン“Woman Woman”、スティーヴィー・ワンダー“Girl Blue”と、アシッド・ジャズのルーツにあたるようなもの。スティーヴィーの曲は「セッションに参加した誰もがスティーヴィーの曲だと気付かなかったんだ(笑)」とブルーイが話すように、ディスコ〜ハウス調の大胆なアレンジが施されており、一時のインコグニートを思わせたりもする。ただ、アルバムにはこれまでマリオが活動を共にしてきた母国のバンドやソングライター(マルコ・ビアンキら)を起用したイタリアン・ジャズ的な曲も含み、改めて彼がイタリア発のシンガーであることも実感させる。



イタリア人ならではのセンス

地中海に浮かぶシチリア島のカターニア出身で、同島随一の街であるタオルミーナで活動を始め、現在は家族と共にパルマに住む42歳のマリオ。洒落たファッション・センスも含め、日本人がイタリア人男性に抱くステレオタイプを体現したようなマリオの人となりは、それだけでも強いインパクトを残す。ブルーイも「彼には普通のソウル・シンガーにない、イタリア人ならではのセンスや爽やかさがある」と語る。

それについてマリオ本人は、「故郷のカターニアはエトナ火山の近くだからエネルギーとパワーに満ちていて、それが僕の人生を後押ししてくれているのさ」と自己分析。そして、新作『Sun』については「喜び、そして太陽と音楽」と表現した。バリー・ホワイトに例えられる野太い歌声について問われて、「光栄だけど、僕はベリー・ホワイト(=凄く色白)なだけさ」と切り返すイタリアン・ジョークも絶好調。5月にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールでのライヴも成功させたばかりのマリオ・ビオンディは、舞台を世界に移してイタリアン・ヴァイブを放ちはじめたばかりだ。



▼マリオ・ビオンディの作品。

左から、ハイ・ファイヴ・クインテットとの2006年作『Handful Of Soul』(Schema)、2009年作『If』(Tattoo/ポニーキャニオン)、2010年作『Yes, You Live』(Tattica)

 

▼関連盤を紹介。

左から、アル・ジャロウのベスト盤『The Very Best Of: An Excellent Adventure』(Rhino)、リオン・ウェアの76年作『Musical Massage』(Motown)、ケニー・ランキンの80年作『After The Roses』(Atlantic)、スティーヴィー・ワンダーの72年作『Music Of My Mind』(Motown)

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