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特集

三回転とひとひねり

カテゴリ : スペシャル

掲載: 2013年08月23日 20:30

更新: 2013年08月23日 20:30

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次



一筋縄じゃいかない不思議なバンド、フロム長崎



三回転とひとひねり_A



気が付けば〈さんかいてんとひとひねり♪〉と口ずさんでしまっています。例えば、人気漫画家のノッツが手掛けた“稲荷〜三回転とひとひねりのテーマ〜”のMVをチェックすればあなたも間違いなくそうなる、三回転とひとひねり。Fragmentが主宰する注目レーベルで、昨年は泉まくらを送り出した術ノ穴のニューカマーですが、彼らは2008年に長崎で結成された4人組のバンドです。2次元カルチャーとの親和性も纏い、無表情さと温もりを併せ持った不思議な佇まいは、非実在ノリの諸々と重ねることも可能ではありますが……。

「いままでライヴでしか知られていなかったのでそんなことはないと個人的には思うのですが、ネットで見かけてちょっと気にかけてくれる人からはそう思われても不思議はないかなと思います」(じゅりあ、ベース)。

「演劇みたいな感じとは言われた。どっか浮いてる? 地に足が着いてない感じとか」(みさき、ヴォーカル)。

ふわふわ?しながらも、4人はもちろん実在します。「なるべくおもしろく、でもポップに。アングラ感とメジャー感の中間」(よしだ、ギター)という音楽性は、朗読も織り交ぜた独特の曲構成と、それだけじゃないアレンジの振り幅を備えたインディー・ポップ。現在はしげるのみ東京住まいながら、楽曲制作は「3人と僕で演奏の録音データをやりとりして、ミーティングを重ねて、スタジオに入るという感じです。なので、基本は4ピースのみのジャム・セッションです」(しげる)という行程で進めているそう。また、メロディーはすべてみさきが考え、その後によしだ以外の誰かが歌詞を書くというプロセスも彼らのユニークなところでしょう。“仮設5号機”のように着想が明白なものもあれば、ナンセンスな言葉遊びもあったり、曲ごとに異なる美しさがあるのはそういった詞の彩りによるものでもあります。

「“仮設5号機”は、僕がもともと、言われなければわかんないかもしれない、ギリギリのラインの二次創作みたいなものが好きなので作ってみた感じです。モチーフを共有できる人にはより楽しめるかなという」(しげる)。

「何かを伝えたいというよりは、単語をぽん、ぽん、と与えるだけで、たぶん聴く人たちは自分たちで物語をつくってもらえるので、あとは聴く人それぞれが想像してもらえれば……といった感じです」(みさき)。

いろいろ訊いてみると個々の趣味も世代もさまざま。そんな4人の共通点といえば、「なんだかんだ、みんなこじらせてる人たちって感じだから」(みさき)ということですが、「まだ何かやれそうだから次はこういうことやってみたい、っていうことがゆるく数珠繋ぎのようになって続いているバンド」(しげる)という答えがしっくりきそうです。

で、そんな数珠繋ぎの果てに完成したのが、今回のファースト・アルバム『回覧盤』。先述の脱力キュートなポップンロール“稲荷”から、内省的な朗読と「いちばんちゃんと感情を込めて歌えてる感じがする」というみさきの歌唱が交錯する“魚の延長コード”のようなスケール感のあるナンバーまでをフラットに聴かせるのが4人の魅力。表題からして言わずもがなの“仮設5号機”があれば、「Fragmentのkussyさんの〈ラーメンの曲を作ってよ〉みたいな雑談から、僕が歌詞をつけました」(しげる)というチャーミングなネオアコ風の“雪山でラーメン”もあり、幻想的なギターの美しい“渇水”やどこか初期クラムボンにも通じる“きりかえガールズ”では演奏に骨太さも垣間見せ、そして「この曲があることでアルバムの幅が広がったと思います」(よしだ)という“レビ”では大貫妙子のような童話性が心地良く浮かび……しげるが「この4人でできることしかやってきてない」と強調するように、誇大な幻想を作り出そうとするわけでもなく、4人のマイペースなやりとりをシンプルに形にしたような仕上がりが好ましいのです。そんな本編に続いては、しげるの友人だというヒゲドライバー、そして術ノ穴のレーベルメイトでもあるPARKGOLFのリミックスもひとひねり。

まずは「川を泳ぐ魚を覗き込む感じで、とりあえず観て、聴いてもらったら嬉しいです」(じゅりあ)とのことですが、リリース後には長崎から山口、福岡でのライヴが続き、10月には〈ササクレフェス〉出演も決定。いちど覗き込んだら目が離せなくなりそうです。

最後に、この奇妙な(のに4人の音楽にしっくりくる)バンド名の由来を訊いておくと——「まだ数回目の練習終わりに、しげるさんを車で送った後、残り3人でバンド名の話になり、パッと出てきたもの?って感じ」(よしだ)、「メンバー全員の誕生日に3と1というキーワードがあり、そこからテキトーに」(じゅりあ)、「このインタヴューで初めて知りました。5年間の謎が解けました」(しげる)。



▼Fragmentの2013年作『感覚として。+ササクレ』(術ノ穴)

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