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EARTH, WIND & FIRE



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熱かった今年の夏を思い出す人のうち、そのうちの何パーセントかは〈SUMMER SONIC〉におけるアース・ウィンド&ファイア(以下EW&F)のパフォーマンスを脳裏に反芻しているのかもしれない。彼らのキャリアにおける重要なライヴとしてよく挙げられるのが、74年に行われた〈California Jam〉だろう。20万人を集めたというこのロック・フェスにイーグルスやディープ・パープルらに交じって出演したEW&Fは、翌年のシングル“Shining Star”で初めて全米総合チャートを制することになったのだ。もちろんそういう規模の話ではなく、もともと彼らはアウェイのような場所で、そういった観客さえも輪に巻き込むべく活動してきたはずである。有名になるとそんな闘いを挑む必要がなくなるのは当然として、必ずしも自分たちを観に訪れたのではない人も含むオーディエンスを前にする機会という意味で、件の〈サマソニ〉は大御所グループには得難いフレッシュな経験となったのではないか。

もっとも、この来日劇にはニュー・アルバムのリリースを見越した部分もあったはずだ。彼らは2011年にデビュー40周年を迎えてワールド・ツアーを敢行、翌年5月には13回目の来日を果たし、先行シングル“Guiding Lights”のリリースを以てアルバム完成の報はその時点から伝えられていた。それから1年以上も延期となったわけだが、その理由をリーダーであるモーリス・ホワイトの病状が思わしくないのか……と推測していた人も多かっただろう。が、この9月に無事届けられたニュー・アルバム『Now, Then & Forever』にモーリスの姿はない。コア・メンバーとしてクレジットされているのは、いまや唯一のオリジナル・メンバーとなったベーシストのヴァーディン・ホワイト(モーリスの実弟)、ファルセットを駆使するリード・シンガーのフィリップ・ベイリー、そしてフィリップと同じ72年に加入したパーカッション/ヴォーカルのラルフ・ジョンソンの3名だ。これは何度も分岐点に瀕してきたEW&Fにとって、この新作はまたひとつの大きな節目となるのかもしれない。



10歳違い

EW&Fの創始者にしてリーダー、メイン・シンガー、コンセプチュアリスト、スーパー・プロデューサー、メンター、全能の存在——モーリス・ホワイトの果たしてきた役割が、どのように形容するにせよ、とてつもなく大きかったのは言わずもがな。メンフィスからシカゴを経由し、EW&FがLAで結成されたのは70年のこと。60年代カリフォルニアの残り香も纏ったファンキーなゴッタ煮ブラス・ロック・バンドだった最初期EW&Fはすぐにワーナーと契約、短期間で2枚のアルバムを残すものの、この時点でのメンバーはモーリス&ヴァーディン兄弟を除いて2年後には全員いなくなる。その英断を後押ししたのが、ツアー中のコロラド州デンヴァーで出会ったフィリップ・ベイリーやその仲間の存在だった。当時フレンズ&ラヴというグループにいたフィリップをはじめ、ラルフ・ジョンソンやラリー・ダン(キーボード)らを加えて生まれ変わったEW&Fは、まだワーナーとの関係がある時期から当時コロムビアにいたクライヴ・デイヴィスの目に留まる。クライヴによる極秘のオーディションを経てコロムビアと契約した72年には早速『Last Days And Time』をリリース、翌年にはアル・マッケイ(ギター)やジョニー・グラハム(ギター)、アンドリュー・ウールフォーク(サックス)を加え、初のゴールド・ディスクに輝く『Head To The Sky』を発表した。そして先述の〈California Jam〉出演もあった74年の『Open Our Eyes』によってブレイクへの用意は整うこととなった。



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別掲コラムにもあるように41年生まれのモーリスは、 フィリップら現メンバーの3人よりも10歳上にあたる(3人共に51年生まれだ)から、当時は30代に差し掛かったところ。新進バンドのメンバーとしては決して若くなかったが、この上昇期においては彼の経験値やリーダーシップが大所帯のグループをグイグイ引っ張っていくエナジーとなったに違いない。モーリスのヴィジョンや音楽的な引き出しの多さがまだ若い演奏陣のヴァイタリティーとガッチリ噛み合ったブレイク期のプロセスについては、さほど紙幅を割く必要もないだろう。……というか、40年もキャリアがあると、振り返るタイミングによって〈このアルバムから聴くべき!〉というものは変わってくるだろうし、そもそもEW&Fの作品にはほぼハズレを感じないとはいえ、75〜80年の作品はすべて聴いていただきたいし、このあたりの音だけからでも〈伝わってくる〉感じは異様に神がかっているので、ここでは簡単にスキップさせていただく。

No.1アルバムとなった『That's The Way Of The World』(75年)と、そのリリースに伴うツアーの模様を収めて新曲も加えた『Gratitude』(後に同ツアーからは初出音源をまとめた『That's The Way Of The World: Alive In '75』も登場)をリリース。『Spirit』(76年)の制作中には師匠的なプロデューサーのチャールズ・ステップニーが急逝するも、というかそれすら魂に取り込んで音世界を強化するかのようにモーリスとEW&Fは、凄まじく高密度で、このうえなくポップな音世界を作り上げていった。マイケル・ジャクソンが『Off The Wall』を発表するまでは、少なくともソウル/ファンクのカテゴリーからもっともクロスオーヴァーに成功したのが、70年代半ば〜後半にかけての彼らだと言えるだろう。



さまざまな障壁を越えて

マイケル・ジャクソンに『Thriller』を作らせた原動力は、先述の『Off The Wall』がグラミーの主要部門に背を向けられたことだというのは有名だろう。彼に屈辱を与えた第22回グラミー賞において、『I Am』(79年)を引っ提げたEW&Fは主要2部門のノミネートに加え、R&B絡みの3部門を受賞。この手のアウォードが得てして保守的なことを思うと、80年代に一歩踏み入ったEW&Fが世間から見ればすでに安心・安定の存在と見なされつつあったことは(結果的には)あきらかだった。モーリスが心血を注いだ2枚組の大作『Faces』(80年)は素晴らしい充実作にもかかわらずそれまでに比べると不満足な成績に終わり、“September”などを書いたアル・マッケイはここで脱退。続く『Raise!』(81年)からは“Let's Groove”のR&Bチャート8週間1位という特大ヒットが生まれるも、40歳になったモーリス自身も時代への迷いを感じはじめたのかもしれない。

そして、大所帯のヴォーカル&インスト・バンドが流行遅れに映るようになってきた83年、『Powerlight』と『Electric Universe』の2枚のアルバムを残してモーリスはEW&Fを活動休止にする。ホーン・セクションを切り捨てて電化した後者に対する個々の思いも複雑だったのか、フィリップによると〈休止〉ではなく〈解散〉だったそうだが、それもまた当時の率直な思いだったのだろう。何より、経験から自信を育んだメンバーたちは、もうメンターの号令に従うだけの若者ではなくなっていたのだ。 83年にさっさとソロ・デビューしたフィリップ・ベイリーは翌年の『Chinese Wall』をフィル・コリンズのプロデュースで作り上げ、両者でデュエットした“Easy Lover”を大ヒットさせ、ソロでも格段の成功を手に入れた。一方のモーリスも85年にソロ作『Maurice White』を発表。そこでは神通力を求められたバンドとは異なり、リラックスして温かい歌声を聴かせているのが非常に印象的だ。他メンバーもプロデュース業などに手を染め、各々がリフレッシュしたところで集まったのは87年。復活シングルの“System Of Survival”は見事にR&Bチャート1位を記録した。

以降の彼らは新メンバーも加えながら、現役ながらもレジェンドというポジションへと軸足を移していった。古巣のワーナーに移籍して『Millenium』(93年)をリリースしたあたりからは、パーキンソン病を患ったモーリスがステージを休むことも増えていく。否応なくチャート上での最前線に立つことはなくなったものの、プリンスやディアンジェロ、アウトキャストといった後進からのレジェンド的な再評価も追い風に変えつつ、バンドはライヴの場で現役を貫いていく。モーリスが辣腕を振るった2003年の『The Promise』も素晴らしいものだったが、それを凌ぐのが今回の新作『Now, Then & Forever』である。

ウィル・アイ・アムら後輩によるトリビュート色の濃かった前作『Illumination』(2005年)に対し、今回は長年のライヴ・メンバー(フィリップの息子も含む)たちが演奏や歌を完全にバックアップし、フロント3人を立てながらも演奏やアレンジは実に若々しく、しかも楽曲からはEW&Fらしいフィーリングがしっかり立ち昇ってくるという離れ業を達成しているのだ。語弊はあるが、モーリスが神棚に上がることで、いまのEW&FはEW&Fを自分たちのものにできたのかもしれない。だから、先だっての言い回しに準えれば、〈『Now, Then & Forever』から聴くべき!〉という人がいてもまったく不思議には思わない。それほどのものだ。



▼いちばん親切な選曲の2枚組ベスト盤『All Time Best Of EW&F』(ソニー)。
まずはこれから!?

 

▼関連盤を紹介。
左から、フィリップ・ベイリーの84年作『Chinese Wall』、モーリス・ホワイトの85年作『Maurice White』(Columbia)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2013年10月02日 17:59

更新: 2013年10月02日 17:59

ソース: bounce 359号(2013年9月25日発行)

文/出嶌孝次

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