MASTER OF HYBRID――独自のハイブリッドを紡ぐ"E"qualのニュー・アルバム
いまや手軽な楽曲制作やネットを通じた音源の発表が主流となり、順調な作品ペースを見せるアーティストも増えてはいるが、名古屋のコアなシーンに根を張り、一年一枚のペースでコンスタントに12枚のオフィシャルソロを積み上げてきた"E"qualの歩みは、個々の内容と共にもっと評価されていい。要は、足掛け10年以上に渡り、トラックにも及ぶ才と併せて毎年欠かさず作品を残せるラッパーがどれだけいるかって話。
そのなかでMSへの移籍は、彼が自由な制作環境を求めた決断だったろう。全曲自身のプロデュースで臨んだ移籍第1弾『STAY GOLD』は、何より作品の質とは別の部分でレーベルとの足並みが揃わなかった、直近メジャーでの制作活動への反動が過剰なまでに形になったものだし、前作『12 TONE APARTMENT』も、ごくシンプルな作風で彼自身のモードを忠実に表現していた。そして、それらに続く"E"qualの新作(数えて13枚目)が、『HYBRID』なるタイトルで今年も登場というわけだ。
今回の『HYBRID』は、これまでも見事な共演を数々残してきたFull Of Harmony(およびMIHIRO〜マイロ〜)と、M.O.S.A.Dの相棒AKIRAとの各共演曲がほぼ全編を占める。「前2作を出して気持ちが落ち着いて、楽しく音楽活動できればいいなあと思ったのが今回の企画」とも語るゆとりのおかげか、硬軟取り混ぜたラップぶりを振り幅と共に引き出した本作は、移籍後3作目にしてもっともバランスの取れた内容と言えるだろう。
「ジャケットのイメージもだけど、歌として伝わりやすい曲という意味でも、大人が手に取れるようなものにしたかった。語弊があるけど、ラップって何言ってるかわかんねえって思っちゃうんすよ、歌ってて自分でもワケわかんないことも歌ってるし(笑)。だからわかりやすく、伝わりやすくっていうのは今回意識した」。
そんな〈大人〉なアルバムにあって、AKIRAとの共演の数々は、「M.O.S.A.D.ヘッズやコア層も喜んでくれる」と本人も自負するハードな側面。ひりつくマイクリレーを備えたグループの代表曲を、哀愁に満ちたトラックで焼き直した“If I...(Remix)”もそこには含まれている。
「AKIRAとは曲のテーマが決まったら、細かい打ち合わせなしで〈何小節書いてきて〉って言うだけ。“They Want "E"qual”を聴いて、トコナメ(TOKONA-X)を好きな子たちはたぶんリリックでわかってくれると思うし、そこからのM.O.S.A.D.の流れからF.O.H.とのクラブ・サウンドに持っていく流れができたらなと。“If I...(Remix)”は、NATOが原曲をサンプリングしてトラック作ってたんですよ、〈こんなんやっちゃいました、すいません〉みたいな感じで。それで聴いたらカッコ良かったんで〈(リミックス)やろう〉って」。
TOKONA-Xの“They Want T-X”の最初のヴァースを改変し、作品の冒頭に持ってきたその“They Want "E"qual”。〈遊びで出す最低なスタイル〉というラインから連なるAKIRAの秀逸な歌詞が脈打つ“Who the fuck is M.O.S.A.D.”。あるいは、ダークなオケに名古屋の街と変わらぬ自分たちを重ねる“Neighborhood Prodigy”といったM.O.S.A.D.イズムが覗くパート。一方、自身を奮い立たせる言葉がDJ RYOWのドラマティックな音とコーラスで深みを増す“Baby Rain”と、ピアノ一本のバックで歌声が感情豊かに際立つリミックス。さらにはダブステップ調のビートに自分の弱さを曝け出し、愛する人への誓いを立てる“I'll be a new man”などから成るF.O.H.(やマイロ)とのパート。加えて、〈俺もどこかの誰か救えてるのか〉と我が身や音楽を振り返るソロ曲“My Diary”……それらのいくつかと合わせて半数ほどを数える自身のプロデュース・トラックも彼らしい色味を添え、全体像に貢献している。「曲単位でその時書きたいことを書く」という当人にとっては毎作が〈できちゃった結婚〉ならぬ〈できちゃったアルバム〉だと"E"qualは笑うが、継続は力なり。『HYBRID』も十分に彼らしく、また力強い。
▼"E"qualの最近の客演作を一部紹介。
左から、DJ HAZIMEのニュー・アルバム『AIN'T NO STOPPIN' THE DJ VOL. 2』(ユニバーサル)、BCDM meets BINK!の2012年作『NUMBER.8』(ファイル)、Crystal Boyの2012年作『VERY SPECIAL』(OCTAVE)
▼『HYBRID』に参加したMIHIROのニュー・アルバム『XOVER』(rhythm zone)