ニコラウス・アーノンクールの追悼企画として、彼が最晩年にソニー・クラシカルに残した2つの名盤が180グラム重量盤として「初LP化」されます。ソニー・クラシカルからアーノンクールのLPが発売されるのは今回が初めてです。
モーツァルト最晩年に書かれたそれぞれに個性が際立つ3曲の交響曲を、1991年のヨーロッパ室内管とのテルデック録音以来、ほぼ四半世紀ぶりに録音として世に問いた2014年発売の名盤です(CDは2枚組)。録音としては、それ以前のコンセルトヘボウ管とのセッション録音(テルデック)以来通算3度目ですが、オリジナル楽器を使用した手兵ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスとの録音は初めてでした。
晩年のアーノンクールはこの3曲を三副対と捉え、モーツァルトの交響曲における総決算的作品として3曲を一晩で演奏していました(2006年のウィーン・フィルとの来日公演でも実践されました)。この2014年の演奏では、それを一層推し進め、この個性的な3曲をひとまとまりの「器楽によるオラトリオ」と捉える独自の視点で解釈した点がまさにアーノンクールの面目躍如といえるでしょう。
モーツァルト作品に「ドラマの対立」を読み取ってきたアーノンクールらしく、細部のコントラスト付けが鮮烈で、耳慣れたこの3曲からこれまでにないような響きやアクセント、アーティキュレーションが聴こえてきます。例えば第39番では第1楽章の序奏部を通常よりも急速なテンポに設定してフランス風序曲の特徴である付点リズムを強調し、後ろ髪引かれるような主部との対比を明確にする点、超特急のようなメヌエットのテンポ、第40番では第1楽章の最初のフォルテを裏打ちするホルンの強奏、やはり通常よりもずいぶんと速いメヌエットとそれとコントラスをなすようなゆっくりとしたフィナーレのテンポ設定の妙。そして同じく第40番のフィナーレでは、アーノンクール演奏のトレードマークとでもいうべき展開部冒頭の大胆なアゴーギクが耳に残ります。「ジュピター」では、第1楽章第1主題のフォルテとピアノの明確な対比、その後のトランペットとティンパニを強奏させつつ大きくクレッシェンドしていくさまからしてアーノンクールの術中に巻き込まれていき、文字通り壮麗な音の大伽藍が築き上げられていく豪壮なフーガが全曲を締めくくるまで、まさに手に汗握る演奏が繰り広げられています。指定されたすべての反復を実施することで、作品のスケールの大きさが際立つことになり、あたかも三本の巨木がそれぞれに個性豊かな葉を茂らせて立っている趣があります。(1/2)
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2016/04/25)
アーノンクールが同じ作品を再演・再録音する際の常であったように、この時も自筆譜を含む作曲者直伝の資料を改めて深く研究しその解釈は常に進化を遂げていました。この三大交響曲も例外ではなく、基本的な解釈やテンポ配分は最初のコンセルトヘボウ管との録音以来不動でありつつも、演奏の密度の濃さ、ドラマティックな所作の振り幅の大胆さは、きわめて大きな深化を遂げています。
アーノンクールの意図を100%汲みつくして現実の音にしていくウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの献身的かつ練達のアンサンブル、両翼配置のヴァイオリン・パートを含む弦楽パートや木管パートのオリジナル楽器ならではの軋むようなノイズを孕んだ濃密な音色、トランペットやティンパニの鋭いアクセントの衝撃的効果も聴きものです。オリジナル楽器による演奏のパイオニアであり、60年以上の演奏歴を誇る老舗アンサンブルならではの、熟成と革新を両立させた類まれなモーツァルト。モーツァルトの演奏史に新たな一歩を記す名盤であるとともに、アーノンクールのモーツァルト演奏の一つの頂点ともいうべき衝撃の三大交響曲です。
LPは、ベルリン・フィル・レーベルのLP制作などを手掛けるドイツ有数の製造会社「オプティマル・メディア」による180グラム重量盤プレスです。それぞれの交響曲がLP両面に余裕を持ってカッティングされており、テルデック時代のコンセルトヘボウとのモーツァルト交響曲LP(「ジュピター」は1枚両面にカッティングされていました)を懐かしく思い起こさせてくれます。(2/2)
ソニー・ミュージック
発売・販売元 提供資料(2016/04/25)