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第123回 ─ オタク感満載のロックンロールを歌う17歳、レッツ・レッスル

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2008/10/09   13:00
更新
2008/10/09   18:17
テキスト
文/久保 憲司

「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、レディオヘッドの来日公演と、「NME」誌も絶賛する17歳のトリオ・バンド、レッツ・レッスルについて。

  みなさん、コント大会の番組「キングオブコント」はどうだったでしょうか? ぼく的には「M-1」ほど盛り上がりませんでした。「M-1」の前(えらく時間が空いていますが)、吉本印天然素材やよゐこがシュールな笑いをやっている頃は、漫才よりもコントの方が勢いがあって、漫才という形態はもうダメになるんじゃないかと思っていました。でも、調子のいい時のチュートリアルやブラックマヨネーズの漫才の方が、コントよりも断然面白いんだ、というのがわかって嬉しかったです。

調子がいい時に面白い、というのがいいじゃないですか。そこにぼくはロックを感じます。コントは爆発しないけど、漫才は爆発するって感じです。両者のたたみかけるコール・アンド・レスポンス、アドリブにブルースを感じます。いちいち衣装替えやセットを組まなくても、ぼくたちをどっかに連れていってくれる感じに、ぼくは得も言われない感動を受けます。

  芸術って何でしょうね、どれだけ自分を持つかでしょうかね。レディオヘッドの4年ぶりの来日公演を見てそう思いました。今回のツアーでレディオヘッドは、70曲のいつでも演奏できる曲を用意し、そこから毎日25曲を選んでセットを組むという、とんでもないことをしているそうです。そこまでファンじゃないから知らないだけで、いつものことなのかもしれませんが。これからファンサイトで調べようと思っています。

  東京初日はエレクトロニックで、2日目は『The Bends』的なギターな感じ、3日目は会場が小さかったので、ダークというか内省的な感じ? とにかく凄かったです(4日目はどんなだったのでしょう)。自由奔放にやっているようで、完璧なバンド演奏。でもそこまで曲に慣れていないからいつも緊張感がある。そんななかをトム・ヨークが浮遊する。そして、バンドが一体となって素晴らしい音を鳴らした時にトムが他のメンバーに見せる、お客さんより嬉しそうな笑顔。これぞバンドだ、という感じでした。

  ついに日本盤が出るぼくの大好きなレッツ・レッスルにこれだけの芸術性があるのか? ぼくはあると思います。歌詞とメロディーだけなら、レディオヘッドを完全に越えている(笑)。

「何枚レコードを買っても この空しさは埋められない」(“I Won't Lie To You”)

「今のところはぼくが勝っているね。これから先もずっと勝ち続けていけそうだよ。でもそうしたら増々図に乗るばかりで、僕はやっと勝ち取ったものすらすべて失ってしまうのだろう」(“I'm Ok You're Ok”)

「レオ・セイヤーを好きな奴はイケてない。だから僕はレオ・セイヤーは聴かないよ。音楽が僕の恋人、だから彼女のためならなんだってするんだ」(“Music Is My Girlfriend”)

「いつかきっと、マンガを読むのと赤ワインを飲むのが好きな人に出会えるはず」(“Song For Abba Tribute Record”)

そして、サーストン・ムーアみたいに変なチューニングでギターを弾いても、どこかで聴いたような音楽になるんだと嘆き、ハスカー・ドゥのメンバーだったらよかったのにと願う“I Want To Be In Husker Du”。

  こんなオタク感満載の歌を、ジョナサン・リッチマンな声で歌う17歳(本当か!?)のヴォーカル/ギター、ウェスリー・パトリック・ゴンザレスにぼくは泣ける。音もモロにあのモダン・ラヴァーズの1枚目の感じだし、きっとみんな感動すると思う。

12歳の時にダイナソーJrのライヴを3人で見てバンドを結成というけど、5年前にダイナソーJrはやっていなかったんじゃないか? まっ、いいか。とにかく、ぼくにはドンズバなんです。みなさん買ってチェックしてみてください。あと、ジョナサン・リッチマンのことをヘタウマというのは止めてください。ジョナサン・リッチマンはロックンロール誕生のグルーヴを再現しようとしているのです。ジョナサン・リッチマンもレッツ・レッスルも誰よりもロックンロールしています。誰よりも踊れます。これが彼らのロックンロールなのです。これこそが本物のロックンロールなのです。