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第126回 ─ ロック・バンドからDJへの逆襲をかけたソウルワックス

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2008/11/20   14:00
更新
2008/11/20   18:45
テキスト
文/久保 憲司

 「NME」「MELODY MARKER」「Rockin' on」「CROSSBEAT」など、国内外問わず数多くの音楽誌でロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、2メニーDJ'sのステファン&デイヴィッド兄弟を中心とするバンド、ソウルワックスのライヴCD&DVD『Part Of The Weekend Never Dies』について。

  みなさん、ザ・フーの来日公演は行きましたか? “The seeker”“Relay”など、ぼく的には生でやられたら泣いてしまうという曲をやっていたみたいで、行けばよかったかなと思っているんですけど、実際は、家でザ・フーの伝記本「ザ・フー コンプリート・クロニクル1958-1978 エニウェイ・エニハウ・エニウェア」を読んでいました。本当にいい本です。この本によると、『The Who By Numbers』は、ザ・フー内における自分の役割とロック界の現状全般に幻滅を感じていたピートの正直な告白なんだそうで、いま歌詞を読みながら一生懸命聴いています。英語があまりよく分からないのが残念です。でもこのアルバムのデモ・テープをキース・ムーンが初めて聴いた時、涙したそうなんです。こういう逸話を知るだけで、ぼくは涙してるんですが。

  この本によると、こうしたアーティストの正直さを表現したアルバムは他にも、ジョン・レノンの『John Lennon/Plastic Ono Band(ジョンの魂)』、ボブ・ディラン『Blood On The Tracks(血の轍)』、ニール・ヤング『On The Beach(渚にて)』があるということですが、ぼくが理解出来ていたのはジョン・レノンだけで、ボブ・ディランの作品は離婚問題の話だけ、ニール・ヤングについてはいい曲が入っているな、この辺がグランジのルーツなんだろうな、くらいにしか理解出来てませんでした。だから、辞書片手に何時間もかけて勉強したいなと思っている今日この頃です。それにしても、この本を読んでいて、ロック・バンドっていいなとつくづく思いました。4人の若者が助け合いながら、世界と戦っていく物語。ぼくにはどんなTVゲームよりもおもしろいです。

  そんな気持ちを抱きながら楽しんだのが、ソウルワックスのライヴCD&DVD『Part Of The Weekend Never Dies』。ロックしていて、カッコイイです。彼らが出演したディーゼルのパーティー、行っておけばよかった。というか、もう4回も来日してるんだから、一度くらいは見ておけだよな。

でも、ずっとダンス・ミュージックを愛していた者としては、ソウルワックスや2メニーDJ'sは、カッコイイのは分かるんだけど、そのタテノリな感じに何かバカにされているような気がするんです。ダンス・ミュージックだったら、もっとハネろと叫びたくなる。しかし、それでよかったんだ。ソウルワックスと2メニーDJ'sは、ロックからダンス・ミュージックへの逆襲だったんだから。ライヴCDの1曲目で、AC/DC、チープ・トリック、プライマル・スクリーム、T・レックス、スモール・フェイセズ、キリング・ジョーク、モーターヘッド、ピクシーズ、ジェーンズ・アディクション……と、リスペクトするロック・アーティストを延々と叫んでいくところなんか、むちゃくちゃカッコイイ。ハウス・ミュージックで同じことをやってる曲があって、それのもろパクりなんですけど、でも、カッコイイから許す(笑)。ギャグっちゃあ、ギャグだし。

  DVDでステファンが、ソウルワックスがなぜ2メニーDJ'sを始めたかというのを語ってくれているんです。「ソウルワックスがミューズなんかのサポートでツアーを回っていると、だいたいコンサートが終わるのが夜の11時。その後、どこに行くかというとクラブしかないんだよね。そこでクソみたいなDJを聴かされて、おもしろくないから、自分たちがそいつらの場所を奪って(レコードを)回しだしたのが始まり」って、まさに、2メニーDJ's=DJが多過ぎる、みたいな感じ。本当にロック・バンドからDJへの逆襲だったんです。

このDVDは、まるで現代のレッド・ツェッペリンのツアーを見ているみたいでカッコイイんだよな。でも、本当のところはこのクラスのバンドだと、こんなに豪華なツアーは出来ないはずなんだよな。彼らがこのDVDをこんな風に作ったのは、やっぱりDJへの復讐があるんだと思う。

バンドは大人数で動かなければならないから、飛行機のビジネス・クラスなんかに乗れないし、高級ホテルにも泊まれない。でもDJは一人、マネージャーがついても二人。だから、ビジネス・クラスにも乗れるし、高級ホテルにも泊まれる。レッド・ツェッペリンがやっていたようなことを彼らは出来るのだ。

ソウルワックスが、そんなDJの生活を見て、俺たちの方がロックなのに、俺たちの方がカッコイイのにと、こういうDVDを残そうと思ったとしても不思議ではない。そして、その通りにこのDVDを見た人は、ぼくみたいにカッコイイな、バンドやりたいな、DJやりたいな、と思ってしまうのだ。