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第189回 ─ PSGも話題のS.L.A.C.K.が今年2枚目の新作を早くも投下! いま聴いとくべき音はこれだよ!

連載
360°
公開
2009/11/18   18:00
更新
2009/11/18   18:03
ソース
『bounce』 316号(2009/11/25)
テキスト
文/一ノ木 裕之


  日々のアクに飲まれることなく、流れるままよと言わんばかりのラップと音を詰めたファースト・アルバム『My Space』で颯爽と現れたS.L.A.C.K.。いち早く目をつけたZEEBRAが、並みいるMCたちと共に“Jackin' 4 Beats Remix”に起用したのも記憶に新しい。そこへもってきて、これまた才人の実兄PUNPEEとGAPPERとのユニットPSGでも先頃快作『David』を発表。と、それら一つ一つに新世代ぶりを見せつけた22歳の男の才能の秘密は、肩の力の抜け具合に尽きるのかもしれない。

 「たまたま、いまは好きなことで稼げてる、ラッキー、ぐらいの感じ。っていうか、別にカネ欲しくねえみたいな、どっちかっていうと。カネのためにどうこうなっちゃってる人とかカッコ悪く見えたりするんで、捨てるものが何もない状況の脳みそを維持したいっすね」。

 ラッパーである以前にトラックも作り、CDのジャケや(PSGの)PVも手掛ける彼にとって、音楽は何より音ありき、そして感覚やノリありきの〈ホビー〉だ。

 「作ってる側はあんまり考えてないけど、人が気付かないような凄いところまで出せてる音楽が好きっす」と語る彼は、ヒップホップといっしょに中学時代から周りに転がっていたさまざまな音楽からそれを教わった。『My Space』もいわばそんなアルバムだった。

 「俺自体、明日には考えが変わってるぐらいのタイプだから、それまでフザけて曲作ってたけど普通に作ってみようかな、みたいな。それで『My Space』作ったんすけど、〈オリジナリティーがある〉とか〈変わってる〉とか言われて」。

 それぞれのアルバムが「日記みたいなもん」と話すS.L.A.C.K.にとってアルバムは〈制作〉するものではない。曲が〈溜まっていった結果〉なのだ。前作から1年待たずして発表となった新作『WHALABOUT』にしてもそれは同じ。本人いわく『WHALABOUT』は『My Space』に続いて「いつの間にか出来てたラッキー・アルバム」なのだという。

 「意味もないし、俺はヒップホップでどうしたいとかもないんで、とりあえずこんな感じのアルバムどう?みたいな。ホント、ノリで1日1曲ぐらい録ってたから、リリックも全然憶えてなかったりするけど、改めて聴くと〈こん時こんなこと思ってたんだ〉とか」。

 前作以降の周囲の変化を前に、我に返るようなリリック群はぐっとシニカルになったが、書き上げた〈日記〉を彼が一つ一つあげつらうことはない。

 「聴いた感じとかノリのほうを重視したい。失敗とかも含めてそん時の作品だから、完璧にしなくても出しちゃう。〈ちょっと納得いかねえな〉って録り直す人もいると思うんすけど、俺はそれもしないし」。

 自身の多重コーラス曲“Sin Son(In)”にも見せるラップに留まらぬ才の煌めき。本作に参加したトラックメイカーのBudamunkyに影響された面もあるという、クリスピーにタッチを変えたビート。そして、ふたたび飄々と音を乗りこなしていくラップとリリック。S.L.A.C.K.2枚目のアルバム『WHALABOUT』は、それらが集まって『My Space』とは違う顔を見せている。

 〈まだほんの20%程度の実力しか見せていない〉――アルバムの資料にはこんな一節もあるが、彼が100%を出し切る日は果たして来るのか? 「ないっすね。20%がたぶん最高なんじゃないかな」と笑う男の100%を見てみたい気持ちはもちろんある。ただ、その20%ぶりが日本語ラップのまぶしく照らしているのも確か。彼の〈日記〉の次のページはどうなるやら。「次のアルバムでは○○○○○を○○○な感じにして、俺がラップを乗せて」ってホント!?        

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