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閉塞感を打破するヴァンパイア・ウィークエンドとジーズ・ニュー・ピューリタンズ

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2010/01/13   17:59
更新
2010/01/21   18:39
テキスト
文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔 週コラム。今回は、モリッシーが画期的なメッセージを発信した80年代初頭の雰囲気をいまに継承する2バンド、ヴァンパイア・ウィークエンドとジーズ・ ニュー・ピューリタンズについて。

 

みなさん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。正月はどう過ごされたのでしょうか? ぼくは実家に帰って、小学校、中学校の幼なじみと当時と同じようなバカ話をして楽しかったです。どんな話かというと、日本はアメリカに見捨てられたという話です。本当の話かどうかよくわからないんで適当に読んでみてほしいのですが、その友達によると、アメリカは世界制覇をめざしていたが、ついに、そういうことは絶対に無理だと気付いた。だからこれからは、ヨーロッパはヨーロッパ、ロシアはロシア、アメリカはアメリカという感じで世界を分割し、統治していこうじゃないかという方針に切り替えたと。そして、アジアはもちろん日本が統治するのではなく、中国だと。この前のオバマ大統領の中国訪問4日間ではそういうことが話し合われ、日本に1日だけ立ち寄ったのは、こういうふうに話が決まったんで、よろしくと言いに来ただけだったと。

ぼくが〈エーッ〉と驚いていると、その友達は「ケンちゃんはこの筋書きちゃんと知っとったやん、俺たちが中学校の頃に、大友克洋の〈気分はもう戦争〉を読め、読め、と言っていたやろ、そこにこういうことが描いとったぞ」と。

ガーン、大友克洋の「気分はもう戦争」は大好きな漫画だったが、何を描いているのか全然覚えていなかったので、その夜、実家の本棚から引っ張り出して読んだら、確かにそのお話は米軍基地がグアムに移転したら中ソ戦争が始まって(しかもこれは出来レースで)、日本は貧乏になるという話だった。すごい、いまの状況と確かに似ている。

だから民主党は米軍基地の移転に何かわけのわからない理由をつけてごちゃごちゃとやっているんだなと思った。このへんはいま話題の新書、内田樹「日本辺境論」の受け売りなんですけど、その本によると、辺境に位置する小さな国、日本は卑弥呼の時代から、中国などの大国を煙に巻くこうした外交戦術によって生き延びてきた、と。かっこいいじゃないですか。

2009年、衝撃の政権交代があったのに何も変わらない世界にいらいらしていたけど、この構造主義的に日本を読み解いた「日本辺境論」はちょっと2010年に希望を持てる本ですので、よかったら読んでみてください。

しかし、衝撃だったのは「気分はもう戦争」です。この漫画の時代背景である1977年の日本がとっても貧しいのです。「ポパイ」も創刊され、世はもっと輝いていたのかなと思っていたのですが、なんだか文化的にも何もかも貧しそうなのです。ぼくがこの時期日本を捨ててイギリスに行ったのは、彼女にふられ、学業に失敗し、バンドに挫折したからだと思っていたのですが、「気分はもう戦争」を読んで、ぼくは日本が嫌になったんだろうなと思います。

当時は、世界中がそうだったんだろうなと思います。だからパンクが生まれ、日本はこの後異様に海外からの文化を輸入しようとしはじめたのではないでしょうか。その頃に流行っていた音楽をいまのヴァンパイア・ウィークエンドやジーズ・ニュー・ピューリタンズが自分たちのものとしてやりはじめているのがおもしろいなと思います。ヴァンパイア・ウィークエンドはアメリカのバンドで、どこかアフリカン・ミュージックのテイストを感じさせ、ジーズ・ニュー・ピューリタンズはイギリスのバンドで、ゴスやポスト・パンクの音と神秘主義を感じさせる。国も、やっている音楽も違うけど、2つのバンドからは82年くらいのあの頃の雰囲気を感じる。あの頃にもいまと同じような閉塞感が漂っていた。でもそうした閉塞感を何とか打破しようとしていたのは、政治家ではなく、こうした新しいバンドたちだった。彼らが新しい意見を提示し、ぼくたちもそれに同調するかのように徐々に変わっていった。モリッシーが『Meat Is Murder』という画期的なメッセージを出したのもこの後すぐだった。あの頃はこの意見に反対する人がほとんどだったけど、いまの人たちで、このメッセージが間違っているという人は1人もいないと思う。『Meat Is Murder』から25年経って、ついにぼくもヴェジタリアンになった。ぼくの場合はダイエットのためなんですが。

ヴァンパイア・ウィークエンド、ジーズ・ニュー・ピューリタンズのように、2010年もいろいろないいバンドが出てくるでしょう。そんな人たちに影響されながら、ぼくはいまの世の中を生きていきたい。きっとできると思う。