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UKインディー界の総体性を担うスコティッシュ・バンド、ベル&セバスチャン

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2010/10/06   18:03
テキスト
文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場 の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、4年のブレイクを経て新作『Write About Love』を発表したベル&セバスチャンについて。スチュワート・マードックが手掛ける楽曲、メロディー、歌詞の素晴らしさだけではない、彼らの本当の〈すごさ〉とは?

 

今年の〈フジロック〉のベル&セバスチャンは本当によかったですね。彼らにとっての久々のライヴだったからかぎこちなく始まったので〈あれ、ベルセバって、こんなもんだっけ〉と思っていたら、それがどんどんベルセバになっていって、気付いたら〈うわーっ、これがベルセバだ〉って、身体揺らされていた時の気持ちよさったらなかったですね。

このベルセバの4年ぶり、8枚目となるスタジオ・アルバム『Write About Love』はまさにそんなアルバムなんじゃないでしょうか。4年のブレイクが新鮮な感じで、メンバーたちがもう一度ベルセバを楽しんでいる感じがします。1曲目“I Didn't See It Coming”のサラ・マーティンのあのヴォーカルから始まって、スチュワートの歌が絡む感じ、これがベルセバって感じでしょう。

こうやって聴くと、前作『The Life Pursuit』は何ひとつクオリティーは落ちていなかったけど、煮詰まったようなストレスがあったような気がします。スチュワートも自分たちのサイトで「大きなツアーが終わったあの時点で、別に誰もバンドを辞めたいとか、そんなことを言うメンバーはいなかった。バンドとしてのシェイプも最高だった。でも、僕たちはブレイクを取ることにしたんだ。自分たちのレーベルのジェフ・トラヴィスに〈休暇を取るよ〉って言ったら〈おい、おい〉って言われるかなと思ったんだけど、彼は〈そのほうがいい〉って言ったんだ」と語っている。ジェフ・トラヴィスもよくわかっていますね。そして、ジェフの一言ですべてがわかってしまうスチュワートもかっこいいですね。長いバンド活動のなかで自分が見えなくなっていた――自分たちの世界に入り込みすぎていたのじゃないでしょうか。でも、この4年のブレイクでまた自分たちがよく見えるようになったんじゃないでしょうか、それが今回のアルバムのフレッシュさのような気がします。

〈これがベルセバだ〉って、書きましたけど、実際のところ、僕はベルセバがどういうバンドなのかよくわかっていないんですよね。日本のWikipediaだと、スチュワートはフェルトに〈どうしたらあなたたちのような素晴らしい曲が書けるんですか?〉って訊いたとあるんですけど、天才・スチュアートがそんなアホな質問するかな。そんな質問していいんだったらぼく、スチュワートに〈どうやったらベルセバになれるんですか?〉って訊きますよ。絶対笑われると思うんですけど。

ベルセバって、やっぱりイギリスのインディー・シーンの総体性なんだと思う。日本のWikipediaだと〈ベルセバの白黒写真にカラーを一色乗せたデザインはスミスの影響〉って書いてあるけど、あれってサラとかの80年代のイギリスのインディー・シーンへのリスペクトなんだとぼくは思う。もちろん、50年代とか60年代のジャケットも入っているんだろうけど、お金がなかった頃、お金がないなりにみんながちょっとでもかっこよく見せようとしていたあの時代へのオマージュなんだと思う。そして、イギリスのインディー・シーンにとって、とっても重要なノーザン・ソウルも入っている。僕はここがいちばん好きなんですけど。

でもやっぱりそれ以上に大事なのは、クリエイションからも感じるイギリス人とは違ったスコティッシュ魂、スコティッシュの団結心なんだと思う。このへんのことを説明するのは難しいけど、ベルセバが好きな人はなんとなくわかっているんじゃないだろうか。ベルセバのオフィシャルサイトを見たらわかるかも。スチュワートがスコティッシュのバンドとこれからの音楽シーンについて語っていて、一回見ただけじゃ半分くらいしか言っていることがわかんない。でも……けっこう胸が熱くなる。そうだ、いちばんいい例は〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉の原型となった〈ボウリー・ウィークエンダー〉の主催がベルセバだった。このフェスこそが、ベルセバというバンドの本当の姿を伝えていたんだと思う。そして、〈ボウリー・ウィークエンダー2〉が〈オール・トゥモローズ・パーティーズ〉主催で今年行われるんだよな。こういうすべてがベルセバのすごさなんだと思う。決して、スチュワートの楽曲、メロディー、歌詞が素晴らしいだけじゃない。

僕にとってはまだまだミステリアスなベルセバ、これからも勉強したいです。