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こんなに社交的な人だった!? レイ・ディヴィスのセルフ・カヴァー集

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2010/12/01   18:02
テキスト
文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ 〈現場 の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、UKを代表するロック・バンド、キンクスのフロントマン=レイ・ディヴィスによるセルフ・カヴァー・アルバム『See My Friends』について。ヴァラエティーに富みすぎなゲストたちを迎えて不朽の名曲群に新たな命を吹き込んだ本作を、ほぼ全曲解説の体で語ります。

 

レイ・ディヴィスの『See My Friends』は素晴らしいセルフ・カヴァー・アルバムで、しかもいろんな人とのデュエット。1曲目から『Give The People What They Want』からの名曲“Better Things”をブルース・スプリングスティーンとですよ。びっくりしました。この企画、ちょっと前に亡くなったアレックス・チルトンとの“Til The End Of The Day”(8曲目に入ってます)のデュエットから始まったそうで、アレックス・チルトンとレイ・ディヴィスが仲がよかったというのにもびっくりしましたけど、ブルース・スプリングスティーンまで……まあ、レイ・ディヴィスに誘われて誰が断れるか、ですけど。

しかし、2曲目のジョン・ボン・ジョヴィとリッチー・サンボラはもっとびっくりしましたね。僕、ボン・ジョヴィとか全然興味なかったんですけど、『Everybody's In Show Biz』の“Celluloid Heroes”をやってくれるなんて、それだけで好きになりました。ジョン・ボン・ジョヴィの大熱唱、リッチー・サンボラの泣きのギターたまりません。3曲目の“Days”はエルヴィス・コステロのカヴァーがいちばん好きですけど、“Days”から『Lola Vs. The Powerman & The Money-Go-Round, Pt.1』の“This Time Tomorrow”に流れていく感じが凄くセンスいいです。イギリスの若手フォーク・ロック・バンドであるマムフォード・アンド・サンズなんですが、やるなって感じです。

4曲目は同じアルバムからの“A Long Way From Home”をオルタナ・フォーク界の女王、ルシンダ・ウィリアムスがカヴァーしてくれてます。5曲目“You Really Got Me”は、なんとメタリカ。メタリカが“You Really Got Me”をやるってだけで盛り上がりますが、残念ながらというか、やっぱりというか、ヴァン・ヘイレンのヴァージョンには負けてしまいますかな。“You Really Got Me”が売れたから二番煎じで作ったとしか思えないんだけど、メタリカには“You Really Got Me”よりヘヴィーなナンバー“All Day And All Of The Night”を最高にかっこよくやってもらいたかったな。でも本作の14曲目には、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンと共に“All Day And All Of The Night”を“You Really Got Me”のセルフ・パロディーのような“Destroyer”とくっ付けるという天才カヴァーがあったしな。やっぱビリー・コーガンも僕と同じように“All Day And All Of The Night”は“You Really Got Me”の二番煎じと思っていたんですかね。

6曲目“Lola”と9曲目“Dead End Street”はイギリスとスコットランドの若手女性シンガーと歌っていますね。前者がパロマ・フェイスで、後者がエミー・マクドナルド。リリー・アレンやエイミー・ワインハウスの成功以降、英国からはいろんな女性シンガーが出て来たので、もういいわ、と思っていたんですけど、パロマ・フェイスは演劇的でミステリアス、エミー・マクドナルドはロッキンな感じがいいじゃないすか。英国はやっぱ層が厚いですね。

7曲目“Waterloo Sunset”ではジャクソン・ブラウンとアコギ2本でのデュエット。何を言うことがあります? 素晴らしすぎるでしょう。“Waterloo Sunset”は僕がいちばん好きな歌なんです。何万回聴いたかわからないですけど、〈Dirty old river〉っていう出だしを聴くだけで、いまも涙が出てしまいます。テムズ川を〈ダーティー・オールド・リバー〉っていうセンス、かっこいいすね。歌の内容は、〈みんな忙しそうだけど俺は別に何もすることがない、でもウォータールーの夕日を見ていたら、それだけで俺はパラダイスなんだ〉という、引きこもりの歌なんですけど、この歌を聴いていると元気になるんです。〈お前はそうかもしれないけど、俺はこうなんだぜ〉という、レイ・デイヴィスらしい強い意志みたいなのを感じるんです。僕はザ・フーがいちばん好きなバンドなんですけど、レイ・デイヴィスのロンドンっ子(もうオッサンですけど)らしい頑固なところが好きです。

ロン・セクスミスもカヴァーし、今回はピクシーズのブラック・フランシスと歌っている隠れた名曲“This Is Where I Belong”は、レイ・デイヴィスが神経衰弱で倒れた時の歌だと思うんですけど、これなんかも聴いていると元気になってくるんですよね。

他にはスプーンと“See My Friends”を、スノウ・パトロールのゲイリー・ライトボディと“Tired Of Waiting”をカヴァー。そして、なぜかレイ・ディヴィスと仲のいいアメリカのバンド、T-88とはツアーもいっしょに回っていて、YouTubeを観ると12曲目“David Watts”を本当に楽しそうにやってます。また、日本だけのスペシャルおまけにはマンドゥー・ディアオと“Victoria”があったりして、ほんとにいろんな人と仲良くやっている。こんなに社交的な人だったのかとびっくりします。こんなんだったら、もう少し弟と仲良くしたらいいのにと思うんですけど、でも、それがレイ・デイヴィスなんですよね。いまは自由奔放にやっているのが楽しいんでしょう。僕は応援するだけです。