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SAKEROCK

連載
360°
公開
2010/12/20   14:23
更新
2010/12/20   14:23
ソース
bounce 327号 (2010年11月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文・お仕事ガイド/村尾泰郎

 

MUDAはMUDAじゃない。SAKEROCK、10年目のMUDA話

 

 

今回のSAKEROCKは何かが違う、なんて新作が出るたびに思い続けてきたけれど、やっぱり、今回のSAKEROCKも何かが違う。フル・アルバムとしては4枚目となる新作は、その名も『MUDA』。〈ミューダ〉じゃなくて〈無駄〉。これまで、音楽も人生も寄り道を愛してきた4人らしいタイトルだ。さぞかし無駄が多いアルバムなんだろうなあと思って聴いてみれば、いきなりソリッドなギターのリフが刻まれ、ビートは真っ直ぐに疾走する。これまでの千鳥足な雰囲気から一転して、この溌剌としたロック・バンド感。一体、彼らに何が起こったのか?

「この前、ソロ・アルバム『ばかのうた』を出したんですけど、それはなるべく素直にやろうと思ってレコーディングしたんです。で、ソロ作が完成した後に改めて『ホニャララ』(SAKEROCKの前作)を聴いたら〈素直じゃないなあ〉と思って(笑)。それで、次のアルバムは普通の感じでやってみたいと思ったんです。これまでのアルバムは何だかんだ言ってゲストを入れて背伸びした感じだったし、今度は僕ら4人だけでアルバムを作ろうと」(星野源、ギター/マリンバ)。

普通の感じのSAKEROCK。それがどんな感じか、メンバーが気付くきっかけになったのが新作に収録された“KAGAYAKI”だった。

「この曲を源くんが初めて持ってきた時なんですけど、せーのでシンプルに演奏した後、いつもだったらいろいろ変えていくのに、源くんが〈これでいい〉って言ったんですよ。だから俺は〈大丈夫なの、これで?〉って(笑)。それは曲があまりに8ビートだったからなんですけど、でも実際にライヴでやったら評判が良くて。確かに大丈夫だった」(伊藤大地、ドラムス)。

「これまでは8ビートだとつまんないから変拍子を入れたり、コードを変えたり、いろいろやってたんですけど、それって素直にやることが恐かったからなんですよね。聴いてくれる人に飽きられるんじゃないかって。でもソロ・アルバムを作って、何となく大丈夫だと思えるようになったんです」(星野)。

そして、〈4人だけでやるって、どういうことなんだろう〉と考えながらメンバーが曲を持ち寄った時、そこに共通するエッセンスとしてあったのが〈ロック〉だった。その時の曲が“MUDA”と“Green Mockus”。オープニング・ナンバー“MUDA”は、冒頭で紹介した通り、「歪んでいる音を出しているだけで楽しい」と語る星野のギターがロックンロールをやる喜びに満ちているし、その一方で“Green Mockus”は複雑な構成を持っていて、歪んだギターとトロンボーンが絡む〈ポストSAKEロック〉的なサウンドが異色だ。

「いままでにやったことがないことって何かな?って考えながら、フランク・ザッパを聴き直してたんですよ。ザッパって、どの曲もバンド・メンバーが楽しそうじゃないですか。じゃあ、SAKEROCKが楽しいことってなんだろうと思った時に、ハマケンが無理することだと(笑)。それで、最初の一音をハマケンが出せるいちばん高いところから始めたんです。そこからポスト・ロック的なフレーズをSAKEROCKでやってみたらおもしろいんじゃないかって、いろいろと広げていったんです」(田中馨、ベース)。

おっと、そういえばSAKEROCKの大きな顔、トロンボーン奏者のハマケンこと浜野謙太の発言がまだだった。今回サウンドがロックになったことで、いつもはヴォーカル的な役割を果たしているトロンボーンの〈歌い方〉が変わったりはしなかったのだろうか。

「ああ、それはあるかもしれないです。この間映画に出演したんですけど、その監督に〈セリフは歌うように喋れ、歌は喋るように歌え、って昔から言われている〉っていう話を聞いて、〈あっ〉と思ったんですよ。それで今回、喋るみたいにトロンボーンを吹いてみたら、すっごい気持ち良くて。きっと、源くんは役者というセリフを喋る仕事をしているからステキな音楽ができるんだな、と思ったんですよねえ……(しみじみ)」(浜野謙太、トロンボーン)。

「そうなの(笑)? これまではトロンボーンがヴォーカルだったんですけど、今回は違うと思うんですよ。4人だけで演奏することによって、4人が並列になった気がします。4人のフレーズが代わる代わる出てくる曲もあるし、言ってみれば4人がそれぞれヴォーカルというか。だから喋るように歌うとか、そういうのじゃなくて……」(星野)。

「いや、でもほら、セリフをさあ」(浜野)。

「ひとりだけいっぱい録り直してたくせに(笑)!」(星野)。

映画の話はともかく、4人だけでやるというシンプルな挑戦が、SAKEROCKというバンドのあり方を再確認するきっかけになったことは間違いないようだ。

「今回はいままでよりもひとりひとりが、〈ここは源くんのギターが聴こえてほしい〉とか〈ここはドラムが鳴っていてほしい〉とかバンドのことを考えながら曲を書いたと思います」(田中)。

「曲を書く時はいろいろ考えるんですけど、演奏する時はシンプルにやってもこれまで以上に存在感が出てるんですよね。前までは〈ここでトロンボーンが入るんだぜ、すごいだろ!〉と思って吹いてたけど、そんな気負いが必要なくなったというか。何かするより、力を抜いたほうが良かった。だから、このアルバムが受け入れられたらすごい自信になると思います」(浜野)。

気がつけば今年でバンド結成10周年。インストで音楽的に分類不能なサウンドを奏でながら、自分たちの居場所を探し続けてきた彼らが、10年かけて築き上げた〈くつろげるわが家〉、それがこの新作なのかもしれない。そんな彼らにとってこの10年のいちばんの変化とはどんなことだろう。

「この前ファンレターで、〈ハマケンさんがどんどんつまらなくなってきてますね〉って(笑)」(星野)。

「それは、良い意味で無理しなくなったんだって」(浜野)。

「ハマケンが謙虚になった」(田中)。

「謙虚っていうか何もしなくなったよね(笑)」(星野)。

「そして、太った(笑)。それが変わったことかな」(伊藤)。

――とまあ、訊くだけ〈MUDA〉だった。きっとSAKEROCKは、10年後も無邪気なまでにSAKEROCKであるに違いない。

 

▼SAKEROCKの作品を紹介。

左から、2005年作『LIFE CYCLE』、2006年作『songs of instrumental』、2008年作『ホニャララ』、2009年のDVD「ぐうぜんのきろく3」(すべてKAKUBARHYTHM)

 

▼関連作を紹介。

左から、2005年のサントラ『キャッチボール屋』、サケロックオールスターズの2006年作『トロピカル道中』(共にKAKUBARHYTHM)、2007年のサントラ『黄色い涙』(J Storm)、同『おじいさん先生』(KAKUBARHYTHM)