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androp 『door』

連載
岡村詩野のガール・ポップ今昔裏街道
公開
2011/02/16   17:59
ソース
bounce 329号 (2011年2月25日発行)
テキスト
文/宮本英夫

 

 

一切のアーティスト・プロフィールが公表されていないにも関わらず、これまで2枚の作品とMySpace、そしてライヴの評価で非常に大きな注目を集めているバンドである。〈ふ~ん、最近はいろんなマーケティングの手法があるのね〉と、思わず斜に構えそうになったが思い直した。ちょっとインターネットで探せばさまざま情報を手に入れることができ、聴く前からさも聴いたかのような口を誰もがきける時代のなか、音だけで判断してくれという姿勢は潔い。同時にリスナーとしてのこちら側の瞬発的な判断力とセンスも問われるわけで、これはなかなか楽しい〈勝負〉である。

そこで、今回リリースされたのが3枚目のミニ・アルバムとなる『door』だ。順番に聴いていこう。まず冒頭の“MirrorDance”は4つ打ちのリズムを採り入れたロック・チューンで、ベースラインにはラテン音楽の影響も感じられるなど、さまざまな要素を組み合わせたスケールの大きな祝祭感が素晴しい。その次は猛スピードで疾走する3分弱のメロディック・パンク“Alpha”。中間部には変拍子のパートを組み込むなど高い演奏力とアレンジ能力を遺憾なく発揮している。また3曲目の“Amanojaku”は、ギターとベースがユニゾンで刻む激しいオルタナ調のリフが暴れ回り、サビでは一気にポップなメロディーが大解放される。これだけ密度が濃いナンバーなのに、わずか2分半というテンポの良さもandropの大きな特徴だ。一転して、ダブを採り入れたスロウ“Puppet”は、淡々としたブレイクビーツが途切れてサビの美メロが現れる瞬間がスリリング。何度聴いてもドキッとさせられる。

アルバムの折り返し地点には誰が聴いても〈いい曲だね〉と思うであろう普遍的な、いわゆるJ-Popの心地良さをケレン味なく散りばめたシンプルなポップ・チューン“Youth”、バンド・サウンドにテクノ・ポップな音をまぎれ込ませた“Q.E.D.”を。さらに、煌めくアコギの音をベースにしたシンプルさが魅力の“Clover”はひたすらに叙情的な音がこれでもかと繰り出され、〈四つ葉のクローバーに願いをかけていくよ〉という可愛らしい求愛の歌詞が、彼ららしい繊細な少年を思わせる世界観をよく象徴している。そしてラストは、これを良いメロディーじゃないと言うのはあまのじゃくすぎるとすら思ってしまうような、ポップ・ミュージックとしての根源的なピュアネスを湛えたスロウ“March”。この曲からは、90年代のスピッツなどに通じる普遍的なメロディーセンスを彼らが体得していることもよくわかる。

このアルバムを何度も聴いて思うことは、2011年のいまを生きる柔らかい感性を持った10代の音楽ファンにとって、〈ロックとはこういうものだろう〉というひとつの典型がここにあるかもしれないということだ。レヴェルの高い演奏力、さまざまな音楽へのマニアックなこだわりを感じさせるアレンジ、キラキラしたポップなメロディーとナイーヴな歌声、そして照れ臭いほどストレートに青春の素晴らしさと切なさを描き出す瑞々しい歌詞——彼らの個性は、3作目にしてすでに完成の域へ達していると言って良い。

身も蓋もなく言えば、スピッツやミスチルなど90年代の邦楽ロックのスタンダードから、BUMP OF CHICKENやACIDMAN、RADWIMPSといった2000年代のスタンダードへと繋がる大きな流れのなかにいるバンドだと思うが、何かに似せようとかより新しいものを作ろうとか、肩に力の入った感じがまったくしないのがandropの特徴だ。どんなに激しい音でもセンティメンタルな叙情性も、どこかあっけらかんと突き抜けた明るさが感じられるのも良い。これから〈顔出し〉した後に彼らがどうなってゆくのかはわからないが、音だけで無限のイメージを広げてくれる稀有な才能を持ったバンドであることは間違いない。

 

PROFILE/androp

プロフィール未公開のロック・バンド。2009年頃からMySpaceを中心に注目を集めはじめ、作品を発表していなかったにも関わらずラジオ番組で楽曲がオンエアされるなど話題を呼ぶ。同年夏に〈サマソニ〉へ出演。12月には初の音源となるミニ・アルバム『anew』をリリース。2010年4月には2枚目のミニ・アルバムとなる『note』を発表し、いずれもロング・ヒットとなる。同年8月にはふたたび〈サマソニ〉に出演し、同年10月には恵比寿LIQUIDROOMで初のワンマン・ライヴを成功させる。今年に入って、5月に行われるSHIBUYA AXでの公演が即ソールドアウトしたことも話題となるなか、メジャー・デビュー作となるミニ・アルバム『door』(UnBORDE)をリリースしたばかり。