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カルト大統領ことデヴィッド・リンチ、自作のクラブ・サウンドで歌う

連載
Y・ISHIDAのテクノ警察
公開
2011/03/25   18:51
更新
2011/03/25   18:51
テキスト
文/石田靖博

 

長年バイイングに携わってきたタワースタッフが、テクノについて書き尽くす連載!!

 

いろいろと最近驚くことが多いですが、〈デヴィッド・リンチがシンガーとしてシングルをリリース〉というニュースは、思わず二度見してしまったのだ。

リンチと言えば、代表作「ブルーベルベット」や「マルホランド・ドライブ」「ツイン・ピークス」のように、わかりやすいストーリーテリングは二の次で、個人的感情や体験を奇怪かつ難解な隠喩や描写で描くという、ブレないキング・オブ・カルトな映画監督。そして非常に偏った質感ではありつつ、アートや音楽も手掛ける多才な人で、アンジェロ・パダラメンティとのコンビで自身の監督作品の音楽や、劇中歌の作詞・作曲を手掛けたりしている。劇場デビュー作「イレイザーヘッド」の印象的すぎる挿入歌“In Heaven”では、お蔵入りとなっていた音源が近年になって再評価されているシンガー・ソングライター=ピーター・アイヴァースとの共作も!……と、さり気なく音楽面の実績もあるのだが、しかし御年65歳にてみずから歌うとは……予測不能であった。

リンチ自身による2曲――まず“Good Day Today”は、意外にもちょっと爽やかな感触すら感じる浮遊テック・ハウス。そして“I Know”は、当時はマッシヴ名義だったマッシヴ・アタックの大名曲“Unfinished Sympathy”のPV――シャラ・ネルソンがLAの街中をただ歩き続ける内容で、後にヴァーヴが“Bitter Sweet Symphony”のPVで引用した――を監督したのも納得の、ブリストル的インダストリアル風味な暗黒ダウンビート(というよりトリップホップ)だ。この2曲を豪華裏ミキサーが手掛けているのだが、この人選がわかっているというか、曲調に合わせたセレクトなのがまたおもしろい。

“Good Day Today”はアンダーワールド、ボーイズ・ノイズ、ディスクヨッケの3組、“I Know”はサシャ、サイモン・ラトクリフ(ベースメント・ジャックス)、スクリーム、ジョン・ホプキンスの4組が参加しているが、ボーイズ・ノイズやスクリームのような〈原曲=リンチ本人リスペクト組〉と、カール・ハイドが歌い直したアンダーワールド、完全北欧ディスコに改編したディスクヨッケ、ダウンビートの原曲をレイヴィーなエレクトロ・ハウス化したサイモン・ラトクリフといった〈自分仕様組〉に別れるのもまた一興。

しかしリミックスも含め、何か奇妙な磁場に支配された感じが拭えないのがリンチのリンチたる所以。というか、映画監督としてのキャリア関係なしに突然歌手デビューという手を打つこと自体が既にリンチ的表現の一環なのだろうかと深読みしてしまうのが既にリンチ的(以下ループ)。実は、歌好きの社長が自主制作で演歌をリリースするという、昭和的スナック歌謡マインドなのかもしれないが。

▼文中に登場したアーティストの作品を紹介

 

PROFILE/石田靖博

クラブにめざめたきっかけは、プライマル・スクリームの91年作『Screamadelica』。その後タワーレコードへ入社し、12年ほどクラ ブ・ミュージックのバイイングを担当。現在は、ある店舗の番長的な立場に。カレー好き。今月のひと言→地震によってキッチリ分類し直したレコード棚(当連載第6回〈MOVE YOUR BODY:またはテクノと引っ越し〉参照)も見事に崩壊、スピーカーも昇天、本棚も崩壊し過去の「bounce」誌が雪崩を起こしたわが家ですが、とりあえず元気です。最近のヘヴィー・ローテーションは、BUBBLE-B feat.Enjo-G“Enjo-Gのぽぽぽぽぽ~ん”。